15:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:52:21.36 ID:u50g9+A20
  
  
  気恥ずかしさも覚えるけど、これも文香のためか。 
  
  
  気持ちを切り替えるために、胸の内で数字を数える。 
  
  ワン、ツー。 
  
  
  
  私は肩から腕を通って、文香の手を握った。 
  
  その手を、ゆっくりと持ちあげる。 
  
  
 「えっと、あの?」 
  
  
  困惑が浮かんだ表情で、文香は私を見上げてきた。 
  
  
 「大丈夫、私に合わせて。1,2,3、1,2,3……」 
  
  
  私は口でリズムを刻む。 
  
  そうして、ゆっくりと前に足を動かしだした。 
  
  いわゆる社交ダンスだ。 
  
  
 「ちょっと、奏さん……!?」 
  
  
  文香は予想外だったようで、目を見開く。 
  
  
 「体が硬くなってるよ、文香。さっき言ったでしょ」 
  
 「で、でも」 
  
 「怖がらないで、私にゆだねて」 
  
  
  私の動きに引っ張られるだけだった文香だったけど、少しして観念した。 
  
  肩に入っていた、力が抜けた。 
  
  
  私も、動きやすくなった。まだ足元は覚束ないし、見られたものではない。 
  
  
  それでも、体がから力が抜けて、文香は踊ることが出来ていた。 
  
  
 「1,2,3、1,2,3……」 
  
  
  
  私は口で、リズムを刻み続ける。 
  
  
  雨の都会の中、二人っきりのダンスルームは、中々に悪くなかった。 
  
  
  
  
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