61:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 22:49:32.90 ID:u50g9+A20
  
  
  息を切らしながら立ち上がろうとしたが、足に力が入っていなかった。 
  
  ぐにゃりと地面に倒れこんで、私は短い悲鳴を上げた。 
  
  
  
 「文香、なにやってるの!?」 
  
  
 「舞台に……私の……出番が」 
  
 「なに言っているのよ、文香」 
  
  
  まさか熱にでも浮かされて、錯乱状態にでもなってるのか。 
  
  
 「貴方の出番はないわよ、文香。聞いていないの。ドクターストップだって……」 
  
  
  文香は答えなかった。息を切らしながら、それでもまだ、前を見ていた。 
  
  
 「そうじゃないとしても、こんな状態で舞台に立てるはずないでしょ」 
  
 「立つんです……私は……立たないと」 
  
 「どうして……」 
  
  
  口にしてから、私は文香の言葉を思い出した。 
  
  
  
  
 「そんなに、主役になりたいの?」 
  
  
  
  
  図星だったようだ。文香は顔をうつむけた。 
  
  小説の主人公のようになりたいという気持ちはわかる。ただ、限度はある。 
  
  
 「なりたい貴方を否定はしないけど、今回は無理よ」 
  
 「無理じゃ……ありません。ならなきゃいけないんです。私は、主役に」 
  
  文香が私の手を振り払う。これ以上、話なんてしていられないと、またまっすぐと前を向いた。 
  
  頑張っている文香の気持ちは尊重したい。 
  
  でも、そんな態度をとられるのは、さすがに我慢がならない。 
  
  
   
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