63:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 22:55:29.05 ID:u50g9+A20
  
  
  やっぱり無理だ。 
  
  今の文香はバランスを崩してる。 
  
  まともな判断なんか、できていないんだ。そんな人を、説得しようとしたこと自体が間違っていたのだ。 
  
  
  私は再び、文香の傍にかがむと、彼女の顔を覗き込むようにして、言った。 
  
  
 「文香、ベッドに戻って。今は休んで」 
  
  
  文香は口を強く結んで、首を振った。 
  
  
 「お願い、貴方が心配なの。そんな状態で無理したら、今日だけじゃ済まなくなるの。これ以上なにかを言うなら、周りのスタッフさん全員呼んででも、止めるから」 
  
  
  これでも否定するなら、本気でそうしようと思っていた。 
  
  文香はちらりと顔を上げて、私に目を向けていた、そして、力尽きたように、肩を落とした。 
  
  私の誘導に合わせて、文香はベッドに戻っていった。 
  
  ベッドの前には音の出ていないモニターがあった。消音という文字が画面に乗っていた。文香の体調を労わって、音は消していたのだろう。 
  
  それなら、モニターも消してくれたらよかったのに。 
  
  
  
  画面に映っているのは、舞台の上の映像。 
  
  
  見覚えのあるアイドルがキラキラとした笑顔を客席に投げかけているシーンだった。 
  
  
  
  文香が無理をしてでも立ちたかった自分だけのステージ。私には、最初から遠かったステージ。 
  
  
  
  
  
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