66:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 23:01:33.11 ID:u50g9+A20
  
  
  
 「奏さんは優しいんです。とっても。優しくて、周りがとてもよく見えていて、だから自分を押し殺しているんです。でも、本当は押し殺さなくたっていいんです。奏さんは、もっと、もっと素敵な人だって、分かってもらっていいんです」 
  
  
  文香は随分面白いことをいう。 
  
  笑って茶化してやろうと思って、言葉が出てこなかった。言葉を出す余裕なんてなかった。 
  
  もし言葉を出してしまえば、胸の内から溢れるなにかに押しつぶされて、私の方が持たなくなりそうで。 
  
  
 「奏さんは、アイドルの前の、私の姿を知っています。あんなに何もできなかった私でも、主役になれるところを見せてあげられたら、奏さんも自分を出せていいって、言えると思って」 
  
  
  文香は言葉を途切った。私の出方をうかがっているかのようで。それなら、こう言ってあげたい。 
  
  
  
  
  貴方に、私の何がわかるっていうの。 
  
  出会ってまだ一年もたたない貴方に、いったい何がわかるの。 
  
  
  
  
  そう突き放せば、ほら簡単。 
  
  
  文香も、私が貴方の思っているような人でないと、理解してくれる。 
  
  だからほら。私は大きく口を開けようとして。 
  
  
  
  
  結局、なにも言うことはできなかった。 
  
  
  
  
  文香の瞳を前にして、いつものように誤魔化すことも、できなかった。 
  
   
  
  
85Res/117.90 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 
書[5]
板[3] 1-[1] l20