馬場このみ「シクラメンの花の香」【ミリマスSS】
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12: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2022/01/06(木) 23:02:22.45 ID:dy8vOWdb0

「特に深い意味はないから、そんな真面目に受け取らんでも……。あ、お酒来たわよ」

 お酒と共に、食べ物も運ばれてきた。りゅうきゅうと、葱の揚げだしだ。徳利に入ったのは私の日置桜で、桝の中にグラスを入れた、いわゆる『もっきり』スタイルのお酒は彼が頼んだ花の香だ。

 りゅうきゅうは大分の郷土料理で、アジの刺身を醬油ベースのタレと、ネギや生姜、ゴマに大葉といった薬味とともに和えた料理だ。元は漁師飯で、これをご飯の上にのせて丼として食べるそうだ。現地ではサバやブリといった魚を使うこともあるらしい。前回この店を訪ねたときは、ブリのりゅうきゅうを食べたが、それもとても美味しかった。

 小皿にそれぞれの分を取り分けてから、りゅうきゅうを口に運ぶ。新鮮なアジは身が締まっており、コリコリとすらしているうえ味も濃い。それに薬味の香りと、甘みのある醬油ダレが絡むと、複雑な味わいだ。

 磁器の徳利からお酒を酌むと、冷やの時には感じられなかったお酒の薫りが湯気とともにぷんと漂う。一つ口に含めると、お酒が隠していた米の旨味、酸味がパッと花開いた。

「ああ、これは沁みる……」

 冷やで飲んでいて予想していた通り、いや、期待以上の味わい深い滋味だ。




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