2:名無しNIPPER[sage saga]
2022/04/03(日) 22:32:39.43 ID:1uAMHkV5O
 「ふん。来なさい。踊ってあげる」 
 「…………」 
  
 久しぶりのレッスンに心が躍る。 
 将棋に個人戦はなく、基本的に孤独な棋士は日夜独り研究に勤しむ。そしてその成果を対局で披露する。有体に言って、浮ついていた。私だけが。 
  
 「っ……もう、ないわ」 
 「………」 
  
 あっという間に負かされた。 
 先生は初手から最後の一手まで終始無言だった。怒っているのかしら。弟子があまりにも弱くて。 
  
 「あ、あの……もう、一局」 
 「………」 
 「っ………」 
  
 恐る恐る再戦を望むと先生はやはり無言で機械的に駒を並べ直す。まるで仕事のように。次の対局を楽しむ素振りは感じられない。どうしてなの。 
  
 「踊っ……」 
 「ほら、踊ってみろ」 
  
 形勢が良くなったと思い上がった私は沈黙した。ただの勘違いだった。錯覚と呼ぶのも烏滸がましいほど自らの認識を恥じ入る。でも声が聞けた。 
  
 「……踊れません」 
 「だろうな」 
 「お願い……もう一局だけ」 
 「……はあ」 
  
 溜息に含まれる諦念。見捨てられたくない。 
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