3:名無しNIPPER[sage saga]
2022/04/03(日) 22:34:20.64 ID:1uAMHkV5O
 「カァアアアアアアアアッ!!!!」 
  
 終盤の入口。竜王が吠える。顎から焔。 
  
 「くっ! まだっ……まだ何か……!」 
  
 泣きたいくらい彼我の実力差は歴然で。 
 いっぱい涙が溢したくなくて、俯く自由すら奪われた私の使命はは目の前の竜王に一矢報いることだけで。そんな弟子を師匠は無感情に見据える。 
  
 「………」 
 「っ……」 
  
 ちらと様子を伺うと目が合い、そこにあったのは虚のような双眸だった。ガチガチ歯を鳴らしながら盤面に視線を戻すも気になってもう一度だけ。 
  
 「………」 
  
 再び静かになった師匠は弟子の私を観察していた。盤面など一切見ていない。見ているのはきっと私の所持品。自分の弟子からまだ何か引き出せるのかを見極めている。底を浚われている感覚。 
  
 「こ、これで……!」 
 「もしもし、銀子ちゃん。そろそろ帰るから」 
  
 考え抜いて指した起死回生の一手を一瞥すると師匠は彼女に電話して帰り支度を始めた。まだ対局中なのに。逆転した筈なのに。何故。どうして。 
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