43: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 21:03:27.87 ID:neaYQz3o0
   
  ベットの下で、僕は必至に息を殺し震えた。 
  母が、人が、いとも簡単に、想像を超えた最期を迎えるのを目にして。 
  湧き上がったのは怒りでも、悲しさでもなく初めて見る魔物への恐怖であった。  
  
44: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 21:04:04.15 ID:neaYQz3o0
  
  ふと、肩に何かが当たっていることに気付き、僕は薄暗がりに目を凝らす。 
  それは、僕らの質素な暮らしには不相応に立派な剣だった。 
  鞘には銀であしらった鷲が、鍔にはアザミの紋章が刻まれている。   
    
45: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 21:04:34.99 ID:neaYQz3o0
  
  そして、父上は、僕を農家の子としてではなく騎士の子として育てようとしていたに違いない。 
  父上が口を酸っぱくして僕に説き聞かせた、「正しい」生き様とは「騎士道」のことなのだ。 
  
  ドスンと、大きなものが倒れる音を全身で感じた。 
46: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 21:05:20.69 ID:neaYQz3o0
  
  父上の口が、微かに動いた。 
  だが出てくるのは、赤い泡ばかりで声になっていない。 
  いや、父上は声にならずとも僕に何か伝えようとしているのだ。 
  僕は、父上の口の動きに意識を尖らせた。 
47: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 21:05:47.18 ID:neaYQz3o0
   
  思い浮かぶのは、父上との厳しい鍛錬の日々であった。 
  雨の日も、風の日も、嵐の日もたゆまず続けられた父上の指導。  
  幼い頃より、繰り返し言い聞かされた「正しい生き様」。 
  そう「騎士道」だ。 
48: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 21:06:14.49 ID:neaYQz3o0
  
  声は出さずとも、僕の決意は必ず父上にも伝わったはずだ。 
  父上の瞳が、少し揺らぎ、滲み、そして光を失った。  
  
  僕は、魔物の気配が消えるのを待ってからベットの下から這い出した。 
49: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 21:06:44.19 ID:neaYQz3o0
  
 ♦ 
  
  巨人の振るう丸太を、体を低くして躱し、僕は巨人の股座に棍棒を叩きつけた。 
  低い唸り声をあげ巨人は、思わず膝をつく。 
50:今日はここまで ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 21:07:17.79 ID:neaYQz3o0
  
  背後から、歓声があがる。 
  見知らぬ誰かが僕の期待に応えてくれたに違いない。 
  僕は、僕の選択が正しかったことに胸を撫でおろした。 
  
51: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:23:49.56 ID:aGyuAlWz0
 ♦ 
  
  少年にとって、これほどまで寝覚めの悪い朝は生まれてこのかた一度としてなかった。 
  硬く冷たい石畳を頬で感じ、鼻の奥を血の臭いがつんざく。 
  日の出前の静けさと、痛々しいまでの冷気が少年の鈍い意識を無理やりに目覚めさせた。 
52: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:24:21.49 ID:aGyuAlWz0
    
  鉄の臭いに紛れ、どこからか肉の焼ける香りが漂ってきた。 
  在りし日の母の後ろ姿を少年は思い起こすが、そんな穏やかな朝を迎えられるはずもない。 
  
  ならば、焼けた肉の香りは―――いったいどこから。 
53: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:24:52.11 ID:aGyuAlWz0
  
 「そこにいるのは誰だ」 
  
  ふいに、掛けられた声に少年の小さい体がビクリと跳ね上がった。 
  慌てて声の方を振り向くも、街は闇に包まれている。 
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