異説 ひのきの棒と50G
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63: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:30:33.93 ID:aGyuAlWz0

「一先ず―――金が要る。死体の懐を漁ってこい」
 
 領主のあまりに人道に反した言葉に、少年は戸惑いを見せた。
 それは、少年の知る「正しい生き様」からかけ離れた行いだ。
以下略 AAS



64: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:31:04.20 ID:aGyuAlWz0

 少年が正門にたどり着くころには、東の空が薄明るくなってきていた。 
 影の塊にしか見えなかった数多の遺体が、その姿を明らかにされる。
 人、人、人、人、大勢の戦士達。そして、僅かながらの魔物。
 
以下略 AAS



65: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:31:33.83 ID:aGyuAlWz0

 少年は、巨人の隣にうつ伏せに倒れている男を見つけた。
 どこか、見覚えのある背中であった。

 少年は、意を決して男の体をひっくり返す。
以下略 AAS



66: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:32:03.99 ID:aGyuAlWz0

「まずは、領主さまの指示に従おう…」 

 少年は、自分自身に言い聞かせ深く息を吐いた。

以下略 AAS



67: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:32:33.26 ID:aGyuAlWz0

 銅貨を前に、少年の手が止まる。少年の良心が止めさせたのだ。
 これまで、多少の間違いはあれど少年は正しいと信じる道を生きてきた。
 人として、踏み越えてはならぬ境を超えたことはなかったはずだ。

以下略 AAS



68: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:33:06.05 ID:aGyuAlWz0

 戦の有様なんてものではない。
 これは、魔物にとっての晩餐の果てだ。 

 少年は、痛感した。
以下略 AAS



69: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:33:33.81 ID:aGyuAlWz0

 世に「正しさ」などはない。
 その果てに残されるのは、屍と死体漁りだけ。

 この世界に救いはない。
以下略 AAS



70:今日はここまで ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:34:53.68 ID:aGyuAlWz0

 僕は、「正しく」ありたかっただけで「正しく」などなかった。
 そして、それすらも無意味であることを僕は知ってしまった。

 だから、父の剣はもう必要ない。
以下略 AAS



71: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 08:14:31.26 ID:TtxL8s290


「こんなに絢爛な食卓は、我が一族始まって以来だな料理長」

 厨房に溢れかえる料理人と食材をかき分け、御屋形様は私のもとまでやってきてそう言った。
以下略 AAS



72: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 08:15:06.17 ID:TtxL8s290

 当初こそ、戦を前に男たちによりよい飯を食わせたいという御屋形様の心遣いかと思ったが。
 それにしても度が過ぎている。とてもこの街の者だけで食べつくせる量ではない。
 街中から食材を集め、いったい御屋形様は何を考えておられるのか。

以下略 AAS



73: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 08:15:33.56 ID:TtxL8s290

 話と言うのは、戦のことだ。人手が足りぬのは厨房に限ったことでは無いようで。
 先ほど、防壁の中に居る全ての男たちへ召集がかかったのだ。
 だが、私は決して戦に出るのを恐れているわけでは無い。
 男に生まれた以上、戦いに赴くのは義務だ。誉だ。
以下略 AAS



74: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 08:16:04.36 ID:TtxL8s290

「ならぬ」

 御屋形様の揺るぎない言葉に、私は諦念の息を吐いた。
 足らぬのは戦士だけではなく、その武具の数にもあった。
以下略 AAS



75: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 08:16:33.54 ID:TtxL8s290

 我儘を言っている自覚はある。だが、どうしても自身の中で折り合いがつかないのだ。
 私の言葉に、御屋形様はしばし目を閉じ思案を巡らせている様子であった。

「見知らぬ誰かで無ければよいのだな。ならばそれは私が振るおう」
以下略 AAS



76:今日はここまで ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 08:17:06.09 ID:TtxL8s290

 御屋形様は、腰に差された剣をスッと抜き柄を私の面前に突き出した。
 美しい刀身には、戸惑う私の膨れた顔がきれいに映し出されている。

「我が家の宝剣だ。ちゃんと返せよ」
以下略 AAS



77:続けます ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 09:12:18.56 ID:TtxL8s290

 
 僅かな時間、眠ってしまっていたようだ。
 いつの間にか、夜が明け朝を迎えていた。

以下略 AAS



78: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 09:13:06.73 ID:TtxL8s290

 安物の剣が、一本買えるかどうかの金額だ。 
 しかし、これ以上は望めまい。

「女子供は北の集落に逃した。お前の妹もいるやもしれん」
以下略 AAS



79: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 09:13:33.80 ID:TtxL8s290

「生き残りを探す。毒のことを、皆に伝えねばならんしな」

 嘘だ。
 もはや、そんな余力はない。
以下略 AAS



80: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 09:14:03.34 ID:TtxL8s290

 遠ざかる少年から、ひと時も目を逸らせなかった。
 ひのきの棒を腰に差し、懐には僅かな銅貨を忍ばせ、街から一人の若者が旅立っていく。

 私は、幸運であった。
以下略 AAS



81: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 09:14:35.12 ID:TtxL8s290

 視界がかすみ、もう少年の姿は見えない。
 願わくば、彼の妹、そしてその旅路が無事であらんことを。

 薄れゆく意識の中。 
以下略 AAS



82: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 09:15:04.37 ID:TtxL8s290


 少年は、森に入る直前で足を止めた。
 その背に、街からの見送りの視線を感じたからだ。
 少年は、街を振り返り大きく右手を振って声を上げた。
以下略 AAS



83: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 09:15:31.48 ID:TtxL8s290
はじまりはじまり


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