228:1[sage saga]
2010/10/02(土) 15:37:53.81 ID:f7bOuCY0
◇
赤い頭髪の正面側、その水面下はパニック状態にあった。
(みみみみ見られた……見られた! あ、あ、あたしののの)
『彼女』の普段の精悍な顔つきは、今やすっかり戸惑いにまみれていた。
たったほんの一瞬でそれは呆気なく、長い間ずっと守り抜いてきた秘中の秘があっさり暴かれてしまった。
普段さらさない部分の素肌も――毎日毎日悩みを注いできた発育途上のムネも――し、し、し……下も!!
そ、それもあんな……あんな弱そうなヒョロヒョロ野郎にっ……!
(あああああの野郎あの野郎アノヤローッ!)
彼女は悔しいやら泣きたいやら腹が立つやら、見るものがいれば思わず憐れむほど取り乱していた。
しかし今、一にも先にも心に湧き上がっている感情は羞恥だった。
もうなんというか恥ずかしくて死にそう、死にたい死にたい恥ずかしい恥ずかしいっ……。
(うああああ)
――実のところ彼女は色事に関する免疫力はまるで皆無で、またこの手の逆境に非常に弱かった。
普段の彼女であれば何よりも怒りが先行してただちに相手を焼却している。
そうすることで無意識にウブな自分をひた隠ししてきたのだが――今回ばかりは余りにもショックが大きすぎた。
恥ずかしさばかりが溢れほとばしり、この後どうすればいいのやら全く思考がまとまらない。
「ディー、ちょっと湯桶取ってくれ」
ブポッ。思わず口元から泡が漏れる。
ハ、ハダカをハッキリクッキリ覗きやがったフラチな野郎が、空気も読めずこの場に留まっている!?
ま、まさか入ってくる気か!? 自分と同じこの温泉に!?
「ああ、湯桶ってのはこれだ。まず湯船に浸かる前に、軽く身体を流すんだ」
(ああああ入ってくる気だ! や、やめ……やめろおっ!)
声が出ない。出せない。なりふり構わず悶えたくなるような恥じらいは今や最高潮だった。
そんな中、ヤツがゆっくり湯の中に入ってくる気配を背後に感じた。
(く、くそ、あたしの湯船に入ってくるな! く……くるなあっ!)
ど、どういうつもりなんだ!
温泉は他にも大量にあるのに、わざわざこんな場所選んできて――
し、しかもあたしのカラダ見といて、なんであえて入ってくるんだ!
あ、あたしが恥ずかしくて攻撃できないとでも思っているのか!? な、舐めてやが――
「気持ちいいなー……」
突如放たれた自分に呼びかけたようなセリフに思わず首を回転、うしろに目線を向ける。
芯の強そうな黒い瞳。
一瞬吸い込まれそうな錯覚。
彼女は跳ねるように視線を逸らした、いや背けた。
(……ま……また目が合って……くっ、くそ、なんだアイツ……なんだってんだ……)
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