295:1[sage saga]
2011/01/08(土) 02:48:00.21 ID:m4YeYXQo
ダルクは、今言われたばかりの罵声をあたまの中で反芻した。
「とっととでていけ、このヘンタイねくらモヤシやろー」
言葉の内容はさておき、まずやけに声が高かったのが印象的だった。
まだ声変わりしてないのだろうかという発想は後から流れた。
なぜなら『彼』の放った声質は、今までの雰囲気や体型を組み合わせるに真っ先に『女の子』らしさを感じたからだった。
熱湯のおかげでダルクの顔は赤くなっていたが、心の中はみるみる真っ青に染め上がっていた。
まさか自分はとんでもない思い違いをしていたのではないか。
この火霊使いのことを紹介してくれた壺魔人は、最初に「壺は有料」なんていうとんでもない冗談をかましてきた。
もし『彼』の特徴を示す「外見も口調も男の子」というのが、「外見・口調『は』男の子」という意味だとしたら。
――火霊使いのどこか柔弱な仕草とシルエットを目の前に、疑念は確信へと傾きかける。
「あう……くっそ……」
『彼女』のうめき声ではっと我に帰るダルク。そうだ、熱い。
彼女の霊力のおかげで、いまこの湯船はゆで釜のごとく煮えたぎっているのだ。
ふと見ればその顔色は先刻より悪化している。このままでは一大事になりかねない。
「お、おい、落ち着け! 霊力を調節しろ!」
「うる……せぇっ……」
彼女は背を向け、よろよろになりながら中腰に立ち上がった。
するとダルクの目に、スラリとしたラインが飛び込んだ。
水に濡れたつややかな赤髪がなまめかしく垂れ下がる。その下に見え隠れする、白い背筋。
いったん女と感じると、もはやそうとしか目に映らない。
ダルクは慌てて目を逸らし、しかし彼女の具合が心配で目をやり、いやいやとまた目を逸らし――
「オ、オレはどうすればいい?」
湯の温度が熱いせいで、冷静な思考も怪しくそう問いかけた。
いや本来ならどうにかして彼女を助けなければならない場面だが、ついさっき目も覚める勢いで拒まれたばかりだ。
ここは大人しく彼女の判断に従った方が。
「とっとと出ていけってんだ!!」
直後、彼女は振り向きざまにダルクの鼻先へと人差し指を突きつけた。
と思うが早いかその指先から一瞬、紅蓮の火球が勢いよく燃え上がった!
「だああ熱ちちっ!」
唐突にコゲた臭いが鼻にむせる。ま、前髪がっ!
ダルクは大慌てで熱湯をかぶり、「わ、わかったわかった!」と第二波が来る前に湯船から退散した。
バシャバシャ慌ただしい水音を立てて一気に風呂の縁まで上がる。
いままで中空を浮遊して様子をみていた使い魔ディーも、慌ててパタパタと主人の後に続いていった。
これまで熱湯に浸かっていたおかげで、風呂の外の空気はすこぶる涼しい。
しかしそれが及ぶまでもなく、ダルクの心持ちはすっかり冷えあがっていた。
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