3:1[sage]
2010/05/30(日) 02:36:01.30 ID:1o/NXgko
満月のまぶしい夜だった。
巨岩が転がり果てているひっそりと寝静まった断崖地帯に、何者かの人影がふわりと浮かぶ。
続いてコウモリのように飛び回る小さな影がその後を追っていった。
やがて岩陰から現れたそれらの正体を、月明かりが音もなく暴いた。
怪鳥の頭蓋を模した頭部をもたげる大仰な杖。
ゆったりした半ズボンに灰のコート。
小さな影からは時折チラつく眼光。
その動きから不規則に羽ばたいている様子が分かる。
闇の精霊を使役する魔法使いの少年ダルクと、コウモリ型の使い魔D・ナポレオンである。
砂利を踏む足音低く、彼らは渓谷から林の方へ徒行していた。
「外の空気も悪くないな」
ダルクが独り立ちを決し、外界に出て最初に口から漏らした言葉だった。
彼はもともと闇の世界の住人で、いままで長期間外に出たことはなかった。
此度は師の提言に従い、修行の一環として、外の世界での一人暮らしを実践する身となっていた。
「そうか。お前も落ち着かないのか」
顔に大きな一つ目だけを持つコウモリが、ひときわ羽ばたいて喜色を示した。
ディーと名づけられたその使い魔とは長い付き合い。
ときどき小うるさく感じることもあるが、下級モンスターにしては非常に利口で忠実なパートナーだ。
「浮かれるのはまだ早いぞ。この先に師匠が手配してくれた一軒家があるはずだ」
まずはそこへ行って荷下ろしだ。それからこの辺を探索しよう――。
言うダルクも、内心では胸を躍らせていた。
夢にまで見た期待の新天地。
これから始まるまだ見ぬ生活。
どんな出会いが待っていることだろう。
二つのシルエットは、急くように暗闇の奥へと溶けていった。
彼らを見送るかのように天上の星々が二、三、優しく瞬いた。
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