363:1[sage saga]
2011/03/25(金) 19:14:05.99 ID:OAAFfc9zo
「コイツ……闇の使い手だったのか……」
やっとそこに思い至った火霊使いの少女は、忌々しそうにつぶやいた。
ときどき低い地鳴りが響くくらいの静かな夜だったので、その言葉は身をひそめていたダルクの耳まで届く。
(い、今まで気づかなかったのか)
思わず肩の力が抜けるダルク。
属性までは伏せていたにしろ、入浴の一件で自分は同じ霊使いだと名乗ってある。
だいいち、ここまで禍々しい杖を持ってコウモリの使い魔を連れている、ときてもピンとこないとは……。
外の世界では闇の魔法使い族などは珍しいのだろうか? だとすれば若干やりやすいかもしれない。
しかし断じて油断はできない。ダルクは彼女のことを知らない。
今しがた見たもの以外でどんな術や技を持っているのか、何を仕掛けてくるのか、そしてどれほどの実力なのか。
未知の相手と一戦交えるとなれば、一瞬たりとも集中力を切らすわけにはいかない。
ダルクは師から様々な教えを受けたが、特にことによっては生死がかかる『決闘』に関しての特訓は十二分に叩き込まれていた。
戦いに関しては、これまで肉体鍛錬、精神修養、戦術や属性の勉学にいたるまで、ダルク自身も意欲的精力的に取り組んでいた。
加えて闇の世界では、下級の悪魔・アンデッド族相手にいくらかの実戦経験も積んでいる。
今のダルクは、その師から『外の世界に旅立たせてもよい』と認められるくらいには強かった。
そうやって修練を通したダルクには、闇霊使いとしての戦い方があった。
それはたとえば――
「おいっ! 隠れてないで出てきやがれ!」
と言われても出ていかないこと。
まぁ出ていけば隠れた意味がなくなるので当然だが、ようするに逃げも隠れもいとわないスタイル。
小細工まやかし心理戦上等の、直接に力をぶつけ合わない戦い方だ。
というよりダルクが扱う闇霊術には直接攻撃に向いているものが少ないので、必然的にそうなってしまう。
「この……ヒキョーモノ! 戦うならセーセードードーだろうが!!」
ひ、卑怯者? ダルクは傷心する。
闇の世界ではだましあいなど常套手段ゆえ、自分にそのような言葉が向けられたことはあまりなかった。
正々堂々戦えるなら始めから隠れたりはしない。
たまたま自分の選んだ道が切った張ったに向いてなかっただけだ。
戦士族にあこがれを抱いたことのあるダルクは、悔しげに奥歯を噛みしめた。
「もう! もうなんなんだよ!!」
焦燥と苛立ちが混ざった火霊使いは、ダルクが生みだした『黒』に向かって手当たり次第にファイヤー・ボールをぶつけた。
次々に『黒』に飲み込まれる炎球だが、もちろん一弾たりとて手ごたえはない。
術者に命中しているなら、展開されている『黒』になんらかの影響があるはずだ。
彼女の歯がゆさは募り、無駄と知りつつも「ちくしょー!」と毒づきながら最後のダメ押しをお見舞いする。
きつね火の使い魔・コンはいつでも飛び出せるよう身構えていたが、やがてなだめるように主人を見上げた。
熱くなっている彼女はそれには目もくれず憤慨中。
困りきったきつね火の顔がなんとも気の毒だった。
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