385:1[sage saga]
2011/04/09(土) 02:00:19.84 ID:/bmAxi7Vo
◆
闇霊術―『漆黒のトバリ』。
ダルクが生み出した『黒』の正体は、いままさに刻一刻過ぎ去っていくこの「夜」より抽出し、さらに濃縮を加えた『闇』。
闇霊術を行使するダルクにとっては生命線ともいえる、基本的な下準備の術である。
密度の高い『闇』を高速で生み出し、闇属性以外のほとんどの敵の視界をさえぎる。
さらに杖で方向を指定することにより、持続力はないが闇のカタマリを広範囲に飛ばすことも可能だ。
また夜の屋外という環境下では、抽出源である闇の調達には苦労しないので、術者の負担も少なく使いやすい。
そのうえ漆黒のトバリが出きってしまえば、その闇の中では縦横無尽に闇霊術が使えるので、ある程度の牽制にもなる。
けれども当然の欠点として、生み出した『闇』自体にはなんの攻撃力もない。
『闇』を生み出している最中はズバリ隙だらけで、このとき襲われたらひとたまりもないのだ。
また闇の外に対してはあくまで視界封じでしかないので、飛び道具などには一方的にやられてしまう。
それでもダルクは開幕でいきなりこの術を使った。
飛び道具を放つ敵が臨戦態勢を取っている目前で、堂々と無防備をさらしたのだ。
というより安全な場所に隠れて使うヒマなどなかったので、もはやこの術が使える狙い目はここぐらいしかなかった。
つまり最速攻の一点。戦いが開始されたのかどうか、「え、始まっているの?」とでもいうような絶妙なタイミング。
経験上この虚を突けば、出遅れた相手はまず警戒して受けの態勢をとる。
その様子見が時間を稼がせてしまっている、と気づくのは後からだ。
そうしてなんとか『漆黒のトバリ』を決め、姿をくらますことに成功したダルク。
もちろん自身は闇の中では目が利くので、ここからは外部を確認しながら自分のペースで行動できる。
逆にあちらからはこちらが見えないはずで、ちょっとしたマジックミラーみたいなものだ。
(よし、うまくいったぞ)
目の前にまだ警戒している火霊使いが見える。使い魔も主の指示待ちのようでまだ動かない。
おかげで十分に闇を広げることができた。これだけ展開できたら、出ばなから主導権はこちらのもの。
さらに今まで見知った彼女の性格から、次に彼女が取ってきそうな行動も容易に想定できる。
(まずは身の安全)
漆黒に包まれたダルクは、まずゆっくり三歩ほど後退した。
そしてその場に屈みこみ、なんとそのままひんやりした石畳の上に這いつくばった。
のみならず、杖のほかに床に転がっていたもう一つのアイテムをずるずる手元に寄せる。
風呂で散々お世話になった、あの壺魔人の壺だ。
それを腹ばいになった頭の前に置き、敵から見て全身が隠れるような状態にする。
これで万一ファイヤー・ボールが自分のところに飛んできても、とりあえずは凌げるはず。
現にさっき彼女がめちゃくちゃにファイヤー・ボールを飛ばしたとき、一発だけ壺に命中したのを見た。
壺はビクともせず、わずかな焦げを作っただけだった。つくづくとんでもない壺だ。
しかしないよりマシとはいえ、この壺バリアはあくまで対炎球の間に合わせにしかすぎない。
他の火霊術での攻撃のことを考えたら、我が身の保証はまだまだ不完全。
単に闇にこもるだけでは、主導権を失うどころか戦局自体が悪化してしまう。あまり時間はかけられない。
(さぁ……ここからが頭の使いどころだ)
漆黒の中、うつぶせのダルクは眼を閉じ、一度きりの大きな深呼吸をした。
頭の中に混じりけのない闇が浸透するイメージ。
できる限り頭の中を空っぽにして、得られる情報を整理し、状況に応じて臨機応変な判断を下す。
ダルクの戦い方はここから始まる。
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