397:1[sage saga]
2011/04/14(木) 16:11:32.83 ID:oa6Sz5kro
「コン、あいつがどこにいるか分かるか?」「……ええっ」
火霊使いの独り言のような台詞は、そっと耳を傾ければ丸聞こえだった。
どうやら読み通り、あのきつね火はディーのダークボムのおかげで嗅覚が鈍っているらしい。
そうでなければ主の指示なしとはいえ、眼前に潜んでいる敵に対して一応のアクションくらい起こすだろう。
もっとも決め打ちで大丈夫だと判断しなければ堂々と『漆黒のトバリ』など使わなかったが、腹を決めて正解だったようだ。
「じゃあ……コンはあれを調べてきてくれ」
おいおい無用心すぎるだろうと呆れ返るダルク。
声量を変えないもんだから、たったいま打ち立てたらしい作戦模様も筒抜けだ。
三本の柱のうち、まず両サイドから攻め、敵がいなければ真ん中を挟撃するプランか。
力くらべを望むにしては、単純ながら理に叶った効率のいい手段といえるだろう。
言動に抜かりが多いからこそ引き立つ機転。もしこれが自然な着想であるなら場数がうかがえる。
また、敵が潜んでいるかもしれない一柱を任せる点からも、使い魔には相当の信頼を置いているとみた。
確かに自分がディーをさらわれた時も、あのきつね火のあまりの素早さに何もできなかった。
加えてあの従順ぶり。おそらく主の危機には、とっさに身を挺すぐらいの忠勇はあるだろう。
それではたとえ彼女に対し絶好機を得ても、使い魔の妨害によって仕損じる可能性が高い。
すなわち自分が火霊使いに勝利するためには、まずは使い魔コン君の動きを封じる必要がある。
「いくぞ!」
するどく威勢のいい声が響く。
ようやく本格的に動き出したなと思うと同時に、何かが遠めの両脇をすり抜けた。
それがまさに火霊使いとその使い魔だと気づいたのは、振り返って一秒経ったあと。
(な……は、はやい!)
想像以上のスピード! きつね火はともかく、なんで魔法使い族の主人の方まであんなダッシュを!
そんな様子にはみえなかったが、肉体強化の術でも使ったのだろうか?
素であれならなんて身体能力、逃走することになったら自分の足では撒ける気がしないぞ……。
とにかくこちらも急がなくてはならない、ボヤボヤしていたらせっかくの布石がパァになってしまう。
(行動開始だ)
いま一度相手との距離を確認し、ダルクは腹ばいからすばやく立ち上がった。
手短に衣服についた砂埃を払い、間を置かずして自前の杖を天に向かって掲げる。
そのまま『漆黒のトバリ』――濃縮した闇を、空に向かって放った。いや放ち続けた。
霊力を弱めた闇を放ち続けた状態で、その杖先を空に向けて振り回す。
くるんくるんと二重丸を二回。ジグザグを一回。最後に円のような形を一回……。
C――o――m――e――
(来てくれ!)
夜空に浮かんだ乱雑なアルファベット。地上に平行し、しかも重なっているため、傍目ではまず解読不可能だ。
そのうえ漆黒のトバリを下敷きに描かれた文字なので、真上から俯瞰しても暗闇とほとんど判別ができない。
できるのは、闇から生成された闇を見分けられ、長年ともに過ごしてきたパートナーくらいのもの。
すぐさま、上空から様子を窺っていたコウモリの使い魔・ディーが滑空してきた。
相手が使い魔を従えて戦うなら、こちらも遠慮なくディーを使うとする。これでフェアだ。
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