398:1[sage saga]
2011/04/14(木) 16:12:18.08 ID:oa6Sz5kro
  夜分が引いていく空より颯爽と参じた、一つ目コウモリ・ディー。 
  無闇に音を立てず、一直線に主の元へ向かってくる。 
  
  この使い魔は、自らに危険が迫った際に主人に課せられていたことを忠実に守っていた。 
  時と場合により派生型や特殊な指示もあるが、基本的には以下の三点。 
  
  『なにより自らの身を守れ』『自分に危害を加えたものから離れよ』 
  そして、『主人を探し出し、いつでも合流できる状態を作れ』 
   
  最後の指示が一味違い、すぐには合流しないことが大切。 
  まさに今のような交戦中の場合、のこのこ現れて一緒になるのは危険を招くからだ。 
  それに『いつでも合流できる』とは、いわば敵に気づかれない状態での待機状態。 
  主人の合図次第で、応援・奇襲・場合によっては離脱もできる。 
  綿密な打ち合わせによって裏づけされた、ダルクとディーのコンビネーションは並ではない。 
   
 (ディー、よく無事でいてくれた) 
   
  『漆黒のトバリ』の空間に突入した黒い影は、すぐにダルクの肩にとまった。 
  特に疲れている様子もなく、ダルクと同様、温泉効果と夜間真っ最中のおかげで元気そうだ。 
   
 (さっそくですまないが今、炎の使い手と戦っている。お前はあの柱に向かってくれ) 
   
  ダルクは三方向に飛ばした漆黒のトバリのうち、中央の柱を示した。 
  あの柱は先端が観客席のアーチとつながっている。 
  火霊使いときつね火は、しばらくしてどの柱にも敵がいないことを知るだろう。 
  そのタイミングであの柱の上から気を引けば、『観客席に逃げ込んだ』という思考で頭がいっぱいになる。 
  さらに彼女は周囲が見えなくなる可能性もあり、そうなれば使い魔を抑えるには絶好のチャンスだろう。 
   
 (それであのアーチの上から、小石なり破片なり落として相手の気を引いてくれ。 
  タイミングは柱の下に相手がそろって、オレが到着したときだ。もちろん見つからないようにな。 
  気を引いた後はオレの方を観察しつつその場で待機だ。あとでまた合図を送る。 
  何か危険を感じ取ったら、ダークボムを一発落として全力でその場を離れろ) 
   
  ささやくような声で概要をまくしたてるダルク。 
  うなずく代わりに半目をパチパチしばたかせているディー。 
  ディーは言葉が通じるだけでなく、理解力も早いから多分大丈夫だろう。大丈夫だよな? 
   
 (よしいけっ!) 
   
  ダルクは勇気付けるようにその頭をチョンとつついてやり、ディーを勢いよく夜空に解き放った。 
  漆黒から飛びぬけたディーは、天空めがけてパタパタ飛び立っていく。 
  柱の上までの最短航路を飛ぶのではなく、相手に気づかれないよう、一旦高度を稼ぐためだ。 
  
 (オレも行かなければ) 
   
  布石は打った。これからが本番だ。 
  ダルクは左手に壺、右手に杖をにぎり、三方向に伸びた闇の道のうち、中央の道の前に立つ。 
   
  すぐに突き進む前に、あらかじめ自分に霊術を施しておく。 
  ダルクが杖に霊力を注ぐと、漆黒ではない別の魔力がコンコンとこぼれ始めた。 
  放出された魔力はみるみるうちにダルクの身体を闇に溶け込ませ、その輪郭を薄めていく。 
  
  闇霊術―『うごめく影』。 
  外の世界に出てからも何度か使った、ダルクお得意の闇紛れの術。 
  『漆黒のトバリ』との相性は抜群で、この二つを併用すれば並のモンスターの前ならほぼ完全に姿を消すことができる。 
  しかし『うごめく影』を使用している間は他の霊術は使えず、『漆黒のトバリ』の放出も断たなければならない。 
  『漆黒のトバリ』は時間が経てば消えてしまうので、最高の隠れ身でいられる時間も限られている。 
   
  飛ばした漆黒の道ももう長くはもたないが、『うごめく影』をかけておけば注意力散漫な彼女ならごまかせるはず。 
  何にせよあまりぐずぐずしてはいられない。 
  ダルクは霊術が全身に浸透したのを待つと、ためらいなく闇の道へ足を踏み出し始めた。 
  
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