412:1[sage saga]
2011/04/19(火) 15:35:05.62 ID:SS7qLjRxo
「くそ、こうなったら……」
「動くな」
ダルクはへたりこんでいる赤髪のうなじあたりを、そっと杖で触れた。
「杖を当てている。この意味が、同じ精霊使いなら分かるはずだ」
自分で言うものの別に深い意味はなく、半分は脅し文句に頼ってかけているチェックだ。
さすがにこの状態で使える闇霊術は用意してあるが、彼女が俊敏にバネを弾ませたら対応できる自信はない。
そういう点ではこれもある種の賭けだったが、ダルクには不思議と憂いはなかった。
この場に流れているもの――コロッセウムの空気が、戦いの収束を告げている。
それにしても彼女が最後にやろうとしたことが少々気にかかる。
「こうなったら」何をするつもりだったか、まさか観客席ごとこの一帯を炎上させる気だったのだろうか。
その類だとしたらつくづくとんでもない霊使いだ、言動と戦闘能力の組み合わせが危険極まりない。
でも。
背後から見下ろした彼女の背中は思った以上に小さくて、こうしてみると一人のか弱い女の子に過ぎない。
この子は何があってここまで強くなったのだろう。何が彼女をここまで強くさせたのだろう……。
ダルクはふと上方に気配を感じた。
首を上げると使い魔のディーがこちらの様子をうかがっている。
ダルクは微笑を向けると、空いている手の人差し指を立て、その先をくるんくるんと二三回まわした。
ディーは了解のまばたきをし、静かにこの場から飛び立っていった。
今回、使い魔なしでの勝利などありえなかっただろう。ディーはよく頑張った。
この相手も、戦闘中もっとコン君と息を合わせていれば――そういえば、とダルクは彼女に添える言葉を思いつく。
「ちなみに使い魔なら寝かせたぞ」
「なっ」
突然こちらを振り返るものだから、ダルクは思わず固まってしまった。
そして一瞬驚いたあとも、そっとしておく。
脅した意味がなくなるが、その不安げな顔に向かって術をかけるなどできなかった。
同時に安心する。なんだかんだいって使い魔思いの主人だ。
この粗暴な霊使いでさえも使い魔との絆を大切にしていることを知り、なんだか感極まってしまう。
……それにしても整った顔立ちだ。
静かにしていれば可愛い女の子なのに――い、いや、別にそーゆー意味じゃなくて。
「しょ、勝負はオレの勝ちだ」
誤魔化すように一応の明言をするダルク。
その言葉に反応し、下からキッとにらみ上げる彼女。
なんてプレッシャーだ。だがここで物怖じすれば格好もつかない。
ダルクは無理にポーカーフェイスを決め込み、ただ黙ったまま彼女を見返す。
その状態がしばらく続いた。
実際には十秒と経っていなかったが、圧力を受けるダルクには悠久の時間のように思えた。
一方彼女にとっては、敗北という屈辱をすぐには受け入れきれない苦痛の時間だった。
「くそっ」
――やがて彼女は顔を伏せた。
そして、渋々なんて言葉ではとても言い表せない、しぼり出すような口調でそれを告げる。
「…………あ、あたしの……負け……だっ……」
それを聞き終えたダルクは、安堵のあまり思わず息をもらした。
間接的ではあるが、常にギリギリを強いられた戦いだった。
過激な言動に突飛な発想。そして強力な霊力と持ち技の数々。とても真っ向で戦える相手じゃなかった。
……だが。まだこれで一件落着ではない。
ダルクには結果がどうであろうと、あらかじめ決めていたことがあった。
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