688:1[sage saga ちびちび更新ですみません]
2011/09/13(火) 16:23:30.67 ID:PFEIZQyvo
「クルダ……」
一瞬、ジェインの隣にいたライナのつぶやきが耳に入ったが、ダルクはそれに構わず続けた。
「いまあなたは『闇』のにおいがすると言ったが、それは恐らくこれのことだろう」
「なに?」
そばで傍観していたアウスは度肝を抜かれた。
ダルクが懐から堂々と取り出しのは、みるからに禍々しいオーラをまとったあの闇の杖。
「オレは『闇』への防衛術を研究中だ。その一環として、これを持ち歩いていただけだ」
「……確かにその杖には、並ならぬ『闇』が染みついているようだが」
「手に入れるのには苦労したんだ。これは貴重な研究材料、没収は勘弁してほしい」
「没収? まさかそれを逃れるために、私を避けていたのかい?」
「ああ、その通りだ。厄介事はごめんだったからな」
「研究者か……それにしても、『闇への防衛術』? そんなものは初めて聞いたな」
「それはそうだろう。もともと闇に強い光属性一派には、必要のないものだからな」
しゃべりながらも、ダルクは周囲の反応に気を配っていた。
ジェインは笑みを薄めており、まだまだ警戒しているようにみえる。
隣にいるアウスや、遠くにいる野次馬の客たちは石のようにじっとして見守っている。
ライナは――なぜか興味津々で話に聞き入っているようだ。
「いつもあなた方ライトロードがこの町にいるわけじゃない。
しかし『闇』はいつ紛れ込んでいるのか分からない。
ならば少しでも闇を知り、防衛手段を研究しておくのも悪くはないだろう」
焦点の外で、ライナが「うんうん」と頷くのが目に入った。
好印象を受けているらしいのはありがたいが、この子の思考回路はイマイチ読めない。
「……君は先ほど、自分のことを地霊使いと言ったね」
ジェインの顔からは完全に笑みが消えていた。
「精霊術・霊使いというものは知っているが、その地霊術とやらでどうやって『闇』に対抗するつもりなんだね?」
「対抗じゃない、防衛だ。といっても地霊術の結界で『闇』を見つけ出して、それを周囲に喚起するぐらいだ」
「『闇』を見つけ出す? 一般町民にそれができれば、わざわざ我々は出張ったりしないよ」
「確かに実践するにはまだ研究不足。だから闇に扮してまで闇を知る必要があったんだ」
「ふむ……一応きくが、その殊勝な研究者がなぜこのバーにいた?」
「もちろん息抜きもあるが、『闇』の立場になってバーに紛れ込む、という状況も考察できるかと思った」
「ふむ……筋は通っているか……」
ジェインは目を細め、いま一度ダルクをつま先から目元まで眺め返した。
その間まで、ダルクの視線はジェインを捉えたままだった。
少しは慣れてきたが、依然として眩しい光が目に刺さり続けている。
「君の住まいは?」
「出身は西の方にある町。今はこのアウスの家を間借りさせてもらっている」
「家族は?」
「……父は亡くなった。今は実家に母と妹がいる」
「生まれてからずっと家族暮らしだったのか?」
「ああ、それが?」
ジェインは再び「ふむ」と呟き、しばし考え込む。
その空気で手ごたえを感じるダルク。どうやら上手く切り抜けられたか……?
「いや。遅くまですまなかったね」
ダルクがほっとしたその瞬間。
「最後にちょっといいかな?」
突然、半ば乱暴に、ダルクの左手首が引っ張られた。
ダルクは思わず「いたっ」と漏らしたが、ジェインはお構いなしにつかみあげた手首を眺め回す。
真剣に注視しているものは――手錠……?
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