795:【1/3】[sage saga]
2011/11/08(火) 16:04:28.39 ID:NCCnMA9Zo
まだつま先もつけていない夕陽が、活況を呈しているバザーを橙色に滲ませる。
その最中、灰系の地味なコートを大きく身にまとった二人組がいた。
顔はともに深いフードに隠されており、いかにも物々しげな得体の知れない魔導師を思わせる。
だがその身なりに相応しくなく、一方が他方の片腕にしがみついているという、違和感にまみれた構図。
さらに二人の会話が聞こえる距離まで近づくと、見かけとはまるでかけ離れた心証が与えられた。
「見てクルダっ! あれ面白いねっ!」
「ああ」
「あっ、いい匂いっ! なんだろっ? お菓子かなっ?」
「さあ」
「いたっ。あっ、ごめんなさいっ! ……へへ、またぶつかっちゃった」
「なあ」
ダルクは声をひそめ、ほとほと観念したようにライナに言った。
「頼むからもう少し落ち着いてくれ」
「だってボク、地上に降りてきたの初めてなんだもんっ!」
「気持ちは分かるけど、仮にも追われてる身なんだろ? はしゃぐのはマズイだろう」
「大丈夫大丈夫、見つかったら謝ればいいしっ!」
しかしダルクの方はそういう訳にはいかない。
ライトロードに捕まって正体がバレでもしたら、全ては水泡に帰すどころか、身の危険まで関わる。
今の二人は同じ相手を避けているとはいえ、そのリスクに雲泥の差があるのだ。
「とにかく、面倒はごめんだから大人しくしててくれ」
「は〜いっ」
「大体その、くっつく必要もないだろう。放してくれ」
「あっ、もしかして嫌だった?」
「い、いや、そうじゃなくて、周りに誤解されてしまうだろう」
ダルクのもう一つの懸念は、恥ずかしくて恥ずかしくて仕方ないことだった。
立て続けに女の子と知り合ってきたお陰で、確かに最初の頃よりかは異性への耐性はついていた。
が、同じ年頃の女の子に、ここまで積極的にスキンシップを押し付けられたのは記憶になかった。
ダルクの片腕に、コート越しにも関わらず、ライナの柔肌の弾力が微かに伝わってくる。
加えて香水のいい匂いが鼻腔を刺激し続ければ、とても意識せずにはいられない。
というのに、ライナは――
「ボクは別にされてもいいよ? 誤解」
ますますダルクの片腕にぴったりと寄り添った。
困惑一面にあわて果てるダルク。
「お、おいっこらっ」
「だってクルダと一緒ならさっ」
ライナは、心から頼りにしている風に笑いかけた。
「いつ『闇』に襲われても大丈夫でしょっ?」
それを耳にして、ダルクは足を止めた。
幸い人通りの混まない広場付近だったので、誰にも迷惑はかけなかった。
かけているとしたら、ダルクがライナに対してだった。
正しくは、迷惑をかける事態を先送りしているといったところだ。
その結末が『闇』属性の露見にしろ、正体を隠し通すための絶縁にしろ……。
「? どうしたのっ? ねぇクルダってばっ」
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