796:【2/3】[sage saga]
2011/11/08(火) 16:07:03.24 ID:NCCnMA9Zo
「ライナ」
ダルクは、ライナへの罪悪感を少しだけ和らげるために言った。
「その、『クルダ』と呼ぶのはやめてくれないか」
「えっ? どうしてっ?」
「その名前で呼ばれるのは、あまり好きじゃないんだ」
「そうなのっ?」
「ああ」
もっともネーミングセンスのなさという意味でも本当に好きではなかった。
何せ自分の名前を逆さにしただけだ。我ながらもうちょっとマシな名前は思いつけなかったのか。
ダルクは取り繕うように、理由を付け足した。
「それに二人しかいないし、『ねえ』とか『ちょっと』でも間に合うだろ」
「……えっ?」
そのときダルクは、小さな金属音を聞いた。手錠の鎖がこすれる音。
ほぼ同時に、しがみつくライナの腕が片方離れるのを感じる。
目を向けると、ライナはその手で自分の頭を抱えていた。
「ど、どうしたんだ?」
「……」
「頭痛か? 気分が悪いのか?」
ダルクはたちまち焦り始めた。
まさか自分の中の『闇』エネルギーが、無意識のうちにライナに悪影響を与えていたのでは。
だとすれば、どう対処すればいいのか。
人を呼ぶべきか? リスクを飲み込んでライトロードに引き渡したほうがいいのか?
とにかく一刻も早くライナから離れるべきなのだろうが、女の子一人ここに放っておくわけにも……。
「……何でもない」
しかしライナは、思いのほかすぐに顔を上げた。
「平気っ。大丈夫だよっ」
「本当か?」
「うんっ、ちょっとめまいがしただけっ」
ライナは再び、ダルクの片腕へ勢いよく飛びついた。
不意打ちをくらったダルクは体勢を崩し、危うくスッ転びそうになる。
「ほらっ、はやく買いもの買いものっ」
「ま、待て、分かった、分かったから引っ張るな!」
声を立てるものの、ダルクは内心ホッとしていた。
危惧していた展開にならずに済み、何よりだった。
それにしても急に眩暈を起こすなど、やはり本当に地上育ちではない節もあるのだろうか?
「それで、何を買いに来たのっ?」
「ええっと……食べ物は最後に買った方が良さそうだし、まずは生活用品かな」
「生活用品って?」
「ぱっと思いつくのは、炊事で使うもの。食器、手ぬぐい、調理器具……」
「あっ、それならボク、あっちで見かけたかもっ!」
ダルクが念のため地図で確認すると、日用雑貨を扱った通りはライナの示した方向とは真逆だった。
またライナは、道すがら巡回しているライトロードに気づいてないことも多かった。
極めつけに、片時もダルクから離れようとしない。
動きづらい以前に、相変わらず密着部分が気が気でならなかった。
(とんでもない同伴者を連れてしまったな……)
とはいえダルクは、無邪気にはしゃぐライナの顔を覗き見するたび、満更でもない気分を味わっていた。
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