過去ログ - 番外個体「――ただいま、帰ったよ」
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370:1 ◆3vMMlAilaQ[saga]
2010/12/26(日) 20:50:52.49 ID:FDyGJ6A0
頭も目の前も、真っ赤に染まってから冷静を失うのは直ぐだった。
駆けつけてきた店員はそんな彼が冷静を取り戻すのには時間が掛かるかと警戒していたようだが、
振り上げた腕を抑えられると容易にも一方通行の身体から力も気力も失せてしまった。
一度高く振りかざした腕は、砕けたガラスや陶器の破片の中にどうしようもなく振り下ろされる。
ざりざり、ぐしゃぐしゃと、破片が更に細かく砕ける不快な音が響いた。
2回、3回と立て続けに堅く握られた拳は振り下ろされて、その場に小さな血溜まりを成していく。
自慰にも満たない自傷行為。
それが分かっていても尚、止めることができない。
いつから居たのか、ケーキの箱を持った女の店員はその光景を見て息を飲み、
止めに入った若い男の方の店員はどうして良いか分からないといった様子で狼狽している。
一方通行に馬乗りになられてガンガンと頭と床を仲良くさせていた男は虚ろな目で、意識が朦朧としているようだった。
そんな男を介抱したり、破片を片付けたりなどとしなければならない事は山積している筈なのに、少しの間、店内に動きはなかった。
場違いなBGMだけが賑やかに鳴り響いて、それが異様な雰囲気を醸し出す。
「あのー……。その人、ヤバイんじゃ……」
そんな中、おどおどと声を出したのは客の一人だった。
意識朦朧な男を指さして、それにより店内に動きが戻る。
あたふたと周りにいた野次馬や店員が動き出して、一方通行にも声が掛けられる。
「お客様、あの、と、取り敢えずこちらに……」
店員に殴りかかって食器も割った一方通行を咎めるのではなく、恐れを抱くような調子。
それは、『一方通行』という一人の人物に対してとられる当たり前の態度で、すっかり慣れてしまったそれに彼は何も反応しない。
冷めた。
覚めた。
醒めた。
褪めた。
すぐ傍でおどおどする店員を見ても、倒れているクソ野郎を見ても、割れた食器を見ても、周りで囁き合う野次馬を見ても。
何も感じない。
怒りも、痛みも、罪悪感も何もなく、ただ、空虚だった。
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