過去ログ - 番外個体「――ただいま、帰ったよ」
1- 20
369: ◆3vMMlAilaQ[saga]
2010/12/26(日) 20:46:09.06 ID:FDyGJ6A0
能力に頼ることもなく。何の力も借りずに。
よく貧弱だ、華奢だ、などと言われる彼だが、それでも誰かを想う拳には一人の男を倒すだけの威力は十分にあった。


直後、男の身体が床に打ち付けられて鈍い音が響く。
彼が手に持っていた食器も割れて、重く低いその音とは対照的に耳障りな甲高い音を派手に鳴らした。
砕けて辺りに散らばったその破片は一方通行の頬を浅く切り裂いて、一筋の紅い線が白い頬に浮かぶ。


それでも一方通行の血走った双眸は男以外に向くことはない。
獲物を仕留める蛇の如く睨み付けながら馬乗りになって、胸倉を掴んでまくし立てる。
ぐらぐらと男の頭が揺れて堅い床に打ちつけられる度に、散らばった食器の破片が頭の下でじゃりじゃりと危機感を煽るような音を鳴らした。


「あァそォだ、オマエがどンなつもりで人間じゃないみたいだだの言ったか知らねェが確かに俺は化け物みてェなヤツだ!
 よっぽどオマエみてェな考え方のヤツの方が人間らしいだろォよ!」


二人の近くで食事をしていた二人組みが悲鳴を上げて立ち上がる。
激しく揺さぶられてうめき声をあげている男には先程までの余裕など見られなく、後頭部からは流血。
このままでは危険だというのは誰の目からも察することができて、しかし一方通行は止まらない。自制が効かない。


「返せよ!! アイツの気持ち全部だ! 全部返せ!!」


そのことを番外個体は望まない筈だ。この男がどんなヤツか知っても、きっと、彼女はそれが出来ないだろうし、しようとしないだろう。
だからそれは自己中心的な考えで、単なる自己満足にしか繋がらなくて、独りよがりなエゴでしかない。

そんなことは分かっている。


「オマエに、オマエごときにアイツの何が分かる!? 知ったよォな口利くンじゃねェ! 都合が良いだァ!? ふっざけンじゃねェぞ!!」


――自分の口から飛び出るその言葉は、怒鳴り散らす本人の胸の奥までも正確に突いて。

本当は自分だってこうして人に言える立場ではないこと。
逆に自分にアイツの何が分かるかと訊かれたとき、それを答えるに値する権利などないこと。

それらのことが怖くて悔しくて情けないと一方通行は思う。

だから、それを誤魔化すように。八つ当たりでもするかのように。

もう一度拳を振り上げて、


「お客様!」


店の奥からすっ飛んできた店員に押さえつけられた。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
1002Res/580.11 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice