過去ログ - 番外個体「――ただいま、帰ったよ」
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504: ◆3vMMlAilaQ[saga]
2011/01/11(火) 23:45:14.90 ID:Pz6QQEtj0

銀色の引き締まった美しいボディライン。力強い眼。しかし内に秘めた桜色の身は軟らかくほぐれて――


「はぁ……シャケってもはや美学に値するわ……」


とあるデパ地下の食材売り場に横たわるまるごと一本の鮭を見て感嘆の息をつく女は、言うまでもなく学園都市第四位、麦野沈利だった。
そんな彼女の元に鮮魚コーナーのおっちゃんが寄ってきて、嬉嬉と語り出す。
対する麦野も打ち解けて、話が分かりそうなおっちゃんに薄い笑みを返した。鮭の魅力が分かる人に悪人はいないのだ。多分。


「おうおう姉ちゃん、見る目があるねぇ」

「ありがと、シャケに関しては学園都市第一位を名乗れる自信があるわ。……このシャケ、凄く美しいのね」

「今朝揚がってきたんだ、綺麗だろ」

「アートよ……。溜息が出るわ。ねぇ、これって食べきるのにどのくらい掛かるかしら? 一人暮らしじゃキツい?」

「一人暮らしだと腐らせちまうかもしれねえなぁ。冷凍すればなんとかなるかもしんねえが、新鮮なうちが華だ」


分かってはいたものの、それでもがっくりと肩を落とす麦野。
一日3食を鮭にすることは容易だが、それでも食べきるのに時間は掛かる。
おっちゃんの言うように冷凍保存は利くが、それで鮮度を落としてしまうより、
数日以内で食べきれるような家庭に連れて帰られる方が鮭も幸せだろう。

人思いならぬ鮭思いな麦野はすぐ隣に並ぶパックを吟味して、


「……そうね、じゃあこっちの切り身で我慢するわ」


後ろ髪を引かれる思いで大きな鮭と決別する。
一人暮らしをする今の自分に無理でも、いつか家庭を持ったとき。子供を産んで――


(子供は女の子と男の子、一人ずつ欲しいわね。浜面似……ってダメダメ、アイツには滝壺が居るじゃない。
 家族であのシャケを美味しくいただく為に朝は無難に焼きジャケ、昼はムニエルも良いな、夜は石狩鍋ってとこかしら)


まだ見ぬ未来によからぬ目論見を企てる。
真摯に自分を見つめてきた鮭の表情が頭から離れなくて悩ましい。

切ない気持ちを切り替えようと贔屓にしている惣菜屋を覗こうとしたとき、鞄の中で着信を告げるメロディーが鳴った。
一瞬『仕事』の二文字が頭に浮かぶも、画面に表示された名前を見ると険しい表情が一転して柔らかいものとなる。


「ミサカ? どうしたの?」



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