866:SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sagesaga]
2011/12/21(水) 16:19:56.69 ID:A3WND1rLo
>>110
さわやかに透明な朝の日差しが王都の大通りに降り注いでいた。今日も良い一日であることを知らせる春の陽光。
日に照らされた道脇に立つ大時計が十時を指した。その大時計の前をせわしく駆け抜ける影がある。
「やぁっべえ……」
上等なシャツを風になびかせ石畳の上を全速力で走るその少年は、肩越しに大時計を一瞥し焦った様子で声を漏らした。
指定の時間が近い、目的地は遠い。まばらな人の間を縫うようにすり抜ける。
十代半ばにふさわしく軽快な疾走。左手中指にはめた指輪の宝石が光った。
息を弾ませ角を曲がる。しかしその瞬間、
「おーほほほほほ!」
大通りに甲高い笑い声が響き渡った。
道の先に立つドレスの少女を見てとって、少年は足裏で砂利をこすりながら立ち止まった。
舌打ちをかまし、睨みつける。
「んだよ、またお前か。少しは懲りろよな」
鋭い視線に刺され笑い声を止めた少女は、しかし全くそれを気にしていない様子だった。道行く人々の視線を集めてなおひるむ様子もない。
「懲りないのはあなたの方ですわ。いい加減に諦めてわたくしのものにおなりなさい!」
「親同士が決めた婚約なんぞ知ったことか!」
「あなたも分からず屋ね。これは逃れられない運命なのよ」
「それこそ知ったことかよ!」
名家の一人娘とのやりとりはおおむねいつも通りだった。だが、今日の少年にはそれすらも煩わしい。
肩越しに大時計を振りかえる。時間はとうに過ぎていた。これ以上遅れれば間違いなく殺される。冷や汗が背中を伝った。
「いいから通してもらうぞ!」
少女に向きなおり、少年は地を蹴った。選んだのは強行突破。
「彼を取り押さえなさい!」
対して少女は手を振り上げた。その瞬間、どこからともなく黒服の男たちが大挙して押し寄せてきた。
「今日こそはわたくしとのデートに付き合ってもらいますからね!」
掴みかかってくる黒服の内、一人目の手をかいくぐり二人目をかわす。三人目の手は右手でそらし、すれ違いざまに腹に膝を打ちこんでやった。
「何やってるのよあんたたち!」
倒れる黒服に少女が怒鳴る。四人目を蹴り飛ばした少年は、少女の方に駆けだした。
「来なさい!」
少女が手をこちらにさしのばす。その先に光の粒が集まり輝き始めた。周りの黒服も同じように光球を生みだす。
気合の声は全員同時だった。少年に向かっていくつもの光が殺到した。
まともにくらえば気絶は免れない攻撃を目の間に。しかし少年はうろたえることはなかった。走る速度は緩まない。
そのままに少年は左手を空にかざす。その中指、指輪の宝石が光を放った。
「我が呼び声に応えよ!」
少年の咆哮。落雷を疑うほどの轟音が鳴り響く。周りの無関係の人々が逃げていく。悲鳴が響き渡るその中で。少年の左手に刃が現れた。
気合とともに振り下ろされるそれ。空間を幾千に引き裂き、光球を吹き消し、それでも衝撃はおさまらない。
「きゃああああ!?」
吹き飛ばされて少女が倒れる。その脇を少年が駆け抜けた。
「悪く思うなよ!」
少年は叫ぶ。
「こっちだって命がかかってんだ!」
待ち合わせ場所で待っているであろう鬼の化身のごとき交際相手、幼馴染の顔を思い浮かべて身を震わせて。少年はさらに走る速度を上げた。
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