877:SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]
2011/12/21(水) 21:31:03.39 ID:vKW/5w2IO
>>867
目が覚めると一面真っ白の世界にいた。
自分が誰なのか、ここにいる理由も、ここが何処なのかさえ男は知らない。
覚えていないのではない、知らないのだ。
調和を崩すのに罪悪感と快感を半々に感じながら足跡を濃く残すように一歩一歩前へと進む。
何故そうしようと思ったかはわからない。
だが、歩かなきゃいけないと思った。
しばらく進むと灰色の薄汚い布に包まる老人を見つけた。
老人に問う、ここは何処なのか。
「ここは音を聴く為の場所。無闇に口を開いてはいけない」
再度問う、音などどこにある。
「聴こうとすればいい」
耳を澄ましてみた。
真っ白の老人と自分だけの世界に音が生まれた。
心地よい波のような音だ。
老人の横に腰かけ音に心を溶かす。
目を覚ますと、夜行列車は予定通り故郷についた。
アナウンスが聞こえる。
荷物をまとめ、ホームに降り立つと雪が舞っていた。
男は先ほどの世界とこちらの世界、どちらが夢なのかと自身に問う。
人と建物とでごちゃごちゃとした風景は男の心を締め付ける。
“幻の老人”を男は羨ましく思った。
男は音を聞くために口を閉ざし、耳に神経を向ける。
心の言葉をなくしてしまった群衆の声は聞こえず、人々は無口だ。
――ここは音と自分だけの世界。
どこからか老人の声が聞こえた。
調和のない世界になんの感慨もなく足跡を残す。
その足跡は他者に踏み消されすぐ消える。
帰る場所はあそこなのだろう。
人々は各々そこを目指す。
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