過去ログ - お題を安価で受けてSSスレ
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936:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/05/18(金) 15:09:09.39 ID:kFGwZ3HLo
>>112

 抜けるような青空というけれど、今日の空はそれでは表せない程に澄んで高く、遠い宇宙まで見通せそうに思えた。
 高校の屋上は周りの建物よりもそれに少しだけ距離が近い。
 油断すれば地球の重力がわたしたちを地面に括りつけるのをサボって、天高く吸い上げられそうな気分にもなる。

 昼休みを過ぎてさらさらと陽光が降り注ぐその場所の端っこ、フェンスを越えて校舎の縁。そこに人影が見えた。
 うちの高校の制服を着て、少し身体が揺れているのは足をぶらぶらとゆすっているからだろうか。
 彼は身体を大きく後ろにそらし手をついて、空を見上げていた。

 ともすれば死のにおいをそこに感じないでもない。
 少し間違いが起きればまっさかさまにはるか下の地面にたたきつけられてしまうだろう。
 なのにそこにあるのは括りつけられることを良しとしない、底抜けの自由さだった。

 わたしはため息をついて口を開いた。
「そんな所にいたら危ないぞ」
 彼は少し首を傾けて、でも振りかえらないまま返事を返してきた。
「委員長」
「授業は出ないの?」
「そっちは?」
「あなたを呼び戻すように言われたの」
「なるほど」
 彼は言って、しかし立ち上がる気配は見せない。

「落ちるわよ」
「転落死? それとも落第のこと?」
「どっちも」
 言いながらわたしはフェンスに近付き、それをはさんで彼のちょうど後ろに立った。
 空を見上げるその透明な目が見下ろせる。わたしは彼の視界に入っているはずだったが、彼に反応はなかった。

 上空からヒバリだろうか、鳥がさえずる声がかすかに聞こえる。
 わたしも彼に倣って見上げてみたが、その鳥の姿を見つけることはできなかった。
「そっか。気をつけないと」
 何のことか分からず視線を戻すと、彼が立ちあがっていた。縁ギリギリで、わたしは背筋が凍る感覚を覚えた。
「転落も落第も嫌だしね」
 うーん、と彼は伸びをする。

 そう言う割にかなりのんきに見えたけれど、わたしはそれどころではなかった。
「危ないでしょ! 早くこっちに――」
「じゃあ戻ろうか」
 ピョン。彼の姿が消えた。

 全く予想をしていなかった事態に、一瞬頭がフリーズした。
 それから一気に血が下がる感覚を覚え、やっと何が起こったかを理解する。
 慌ててフェンスに飛び付きのぼって上から覗き込む。
 けれども、そこから見える光景は最悪の想像とは遠かった。

「どうしたのさ」
 どうやら教室の窓の外に張り出したベランダのような足場に、彼は着地したらしい。
 わたしは脱力してついフェンスの上から落ちそうになった。
「委員長も早く来なよ」
 言って、彼が姿を消す。がらがらと窓を開ける音がする。
 ただいま戻りましたー、とか声がして、一瞬教室の呆気にとられた静寂の後、先生が怒鳴る声がする。

 まったくもって、自由なことで。
 わたしはため息をついて、フェンスから降りた。



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