984:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/06/29(金) 18:57:14.53 ID:aWk0vWD5o
>>744
ゆっくりと靄が晴れるようにして目が覚めた。瞼を夕日が焼いていたらしい。窓から差し込む赤をぼうっと見上げて、それから上体を起こした。
夕暮れ。町はこの時間にしか見せない顔をして、これからやってくる夜、その気配に備えている。
あくびを一つ。伸びをしてから立ち上がった。
眠っている間に夢を見た気がする。もうおぼろげになってしまって思い出せないから、大した夢ではなかったはずだ。
思い出せるのは何だか悲しかった事だけ。その断片はただの日常と変わりないあれこれだったから、悲しむ要素なんて一つもなかっただろうに。
それでもどこか胸がしくしくと痛むのは、ただの日常こそが物悲しいものだからなのかもしれない。
目的も目標もなく過ぎていく毎日は、演目が終わった後もライトを落とし忘れた舞台の上のようで、むなしくて。
ならばと立てる予定もどこかうすら寒いはりぼてみたいで、人生は生まれた瞬間から死ぬまでの退屈なベルトコンベアでしかなく。
奇跡を信じられずに生きていくことは絶望にも似ている。
夕日が町の陰に隠れる。それでも空はまだ明るい。今日という日の最期の抵抗を思わせる。
でもいくら抵抗したところで終わりは来る。重く黒い緞帳が、今日という日にとどめを刺す。
長い暗闇、静かな死の予感。
しかしそれでも明日はやってくる。むなしいけれど、どこか愛おしい今日を引き継ぐためにやってくる。
だからかもしれない。
「一度も考えたことないな」
毎日というサイクルに決定的な終わりを差し込もうとは考えない。
窓枠をつかむ手に少しだけ力を込めて、口元を引き締めた。
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