過去ログ - お題を安価で受けてSSスレ
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985:やたら長い[sage saga]
2012/06/30(土) 18:59:12.28 ID:JxPLyvzCo
>>970>>415

 その日、彼女は生まれた。
 決して多くの人に祝福された誕生ではなかった。そもそも夫婦は互いに天涯孤独の身だった。
 現にその知らせを聞いたのは、医者を除けばその当人二人と、両者共通の唯一の友人ただ一人のみ。
 その上、妊婦は出産の後事切れた。それでもその夫――彼女の父親はその生命の誕生を心から祝福した。
 彼女の母親と同じように、大粒の涙を流しながら。

 そして数年後のその日、事件は起こる。



 二度目の爆発を合図に、向かい合った二人は同時に銃を構える。
 片方はスーツを着こなした気難しそうな男だ。容姿だけ見ればその辺にいる会社員にも見える。
 が、眼鏡の向こうの瞳が全く違う。それは人を殺せる者の眼だ。

「動くな」

 その視線に気圧されながらも、もう片方の男は怯まない。
 スーツの男とは対照的に、今彼らがいる路地裏が似合うような男だ。
 やや赤みがかった黒髪が、暗がりによく馴染む。

「久しぶりに姿を見せたと思ったら。一応聞きますが、事態を正しく把握していますか」
「これは俺の役目だ。お前は帰って大人しくケーキ食べてろ」
「誕生日パーティーなんて知りませんよ。事態の収拾が最優先です」
「あの子に自分一人だけで誕生日を祝えって言うのか」
「そんなこと言って無いでしょう。知らないと言っただけです」
「お前しかっ、いないだろうが!」

 黒髪の男が引き金を引く。
 飛び出した銃弾はスーツの男性の足元に突き刺さり、地面を削った。

「時間が無いのでこれが最後の警告です。退きなさい、打つぞ」

 警告は沈黙によって無視される。スーツの男は銃口を睨んで嘆息し、眼鏡を外した。
 それと同時に黒髪の男の真横まで、数mの距離を一歩で詰める。

「相変わらず鈍い野郎だ」

 避ける隙はおろか、表情を変える暇さえ与えられなかった。
 銃のグリップで側頭部を強打され、黒髪の男は狭い路地の壁に叩きつけられる。
 地面に崩れ落ちながら、彼は前々から分かりきっていた事実を理解してしまう。勝てない。
 いくら元々の所属が所属だとはいえ、自分とは違い実戦から遠ざかって長いというのに。

「無理に立とうとしないことです。色々と保障しませんよ」
「ぐっ、……組織、的な、無差別テロだぞ。少々腕が、立とうが、命の保障は」
「誰かが止めないと、あれはどんどん加速して大勢の人を巻き込みます。今止めれば最小限の犠牲で済む」
「お前は、それで、良いかもしれない。でも、残されるあの子は、どうなる」
「だから知らねえって。物事には優先順位というものがあります」

 スーツの男は銃を懐に収め、少し名残惜しそうに眼鏡を投げ捨てた。
 そのまま黒髪の男の横をゆっくりと通り過ぎていく。




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