987:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/07/01(日) 03:45:33.08 ID:8AJGhkTao
>>894
〜〜〜
誰も足を止めないその音楽家の奏でる音が僕は好きだった。
けど、この国で音楽は流行らない。
この国は芸術を壊された国だから。
絵もないし、彫刻もない、もちろん音楽なんて洒落たもんもない。
それが普通で、音楽なんか奏でるやつは下手したら犯罪者よりひどい扱いを受けるんだ。
なぜかって……そんな事は知らない。
大昔は芸術を愛していたらしいけど、何時の間にかそれは恐怖の対象になっていたんだ。
だから、僕はこの音楽家が最初は意味がわからなかった。
空き缶や泥水や、ひどい時は生ゴミを投げつけられてもその人は演奏をやめなかったんだからさ。
そして、段々惹かれた。
今日も、僕は一人ギリギリその音が聞こえる人気のない路地裏でぼんやりとしている。
「……今度こそ」
でも、それじゃダメなんだ。
美しいと思った物を、正直に言えないなんて、間違ってるんだ。
間違った事にただ従うなんて死んでるみたいだろ?
やっとそれに気づいた。あの音楽家のおかけで。
だから、僕は決めたんだ。
「ありがとうって言うことを。
素敵な音楽を、そして、僕を生き返らせてくれてありがとうって」
僕は勇気を振り絞り、一輪の花を持って題名の無い音楽を泣かせるように奏でる音楽家の元へと歩み寄って行った。
僕が近づくと、その音楽家は驚いたような表情で演奏を一瞬止めた。
そして、僕が続けてって小さく言うと本当に嬉しそうに綺麗に笑った。
もしかしたら本当はただ、その音を、その音楽家を笑わせたいと思っただけなのかもしれない……。
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