995:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/07/04(水) 20:43:01.28 ID:CcVCh7PXo
>>781
突然なんにも書けなくなった。
モノを書く才能を落としたんじゃないかってくらいほんとになんにも。
頭の中がどうにもすっからかんで、僕は途方に暮れてしまった。
物語を綴るのが好きだった。形にこだわらずに結構色々書いてきたつもりだ。
それはまあ単なる趣味に過ぎなかったけれど、それをすることで何か満たされるような心地にはなれたのだ。
どうしてかそれができなくなった。
神が降りてくる、なんて言い回しがある。それと逆で、どうやら僕は神さまに見離されてしまったらしい。
そして街をさまよっていた。
落とし物を見つけようというのではないが、歩き続けている。
日がゆっくりと天上を滑り、沈み、街に明かりがともるまでずっと練り歩いた。
そんな日が数日続いた。
気づいたら、視界いっぱいが青かった。海だ。
水平線で空の青と海の青が閉じている。
おかしいなと思った。海は家から結構遠かったはずだけれど。
しばらくしてあまり気にならなくなった。来れたからここにいる。それに疑問を挟むのは愚かなことだ。
そこにあったテトラポッドに腰掛けていると、腰の曲がったおばあさんが通りかかった。
重そうな荷物を両手に提げていたので、荷物持ちを申し出た。どうせ時間は余ってる。
おばあさんと並んで歩く。どうやら足が悪いようで、歩みは遅い。
それに関してなんとなく気まずい思いを引きずっていると、おばあさんが口を開いた。
何年も生きているとね、これぐらいは当たり前。
あまりにさっぱりとした口調で言う。
事故だけどね、まあ仕方ないよ。生きているだけめっけもん。それに見合う幸せもあったよ。
おばあさんと別れて、僕は来た道を引き返し始めた。
海の風が涼しい。日が水平線に触れている。水面がきらきらと綺麗だった。帰るのは夕方になるだろう。
ふう、と息をつく。何だかさっぱりした気分だ。
頭はまだまだ空っぽで、物語たちは息をひそめているけれど、なんとなく大丈夫な気がした。
帰ろう。その背中を風がそっと押してくれたように思った。
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