13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2011/01/19(水) 19:38:44.83 ID:IClwZiHj0
「さっき」
戯言遣いは話し出す。
「君の喉にナイフを突き付けていた娘、居ただろう?」
「ああ、えっと……井伊崩子ちゃん、だったか? ん? 井伊?」
「ぼくの娘だよ。とは言っても養子だけどさ。血の繋がりはないんだ。代わりにぼくと崩子ちゃんの間には流血の繋がりが有る」
血の繋がりは無い。流血の繋がりが有る。
その言葉の意味するところを鑑みる間も無く、答えは戯言遣いの口から出た。
「彼女のお兄さん、ああ、こっちは実のお兄さんだけど。石凪萌太くんは、ぼくのせいで死んだんだ」
まただ。また「死」という単語がソイツの口から当然と出てきた。
「ぼくのせいで、崩子ちゃんの目の前で、萌太くんは死んだ。だからという訳じゃないけれどそれ以来ぼくが彼女の面倒を見ている。
真っ当な人生を彼女には歩んで貰いたいから、三年ほど前かな、彼女には無理を言ってぼくの養子に入って貰ったって訳。暗殺者に戸籍なんて無かったし」
「よく分からんし、なんだか俺の中の何かが深入りは止めておけと言っていやがるから考える事を放棄させて貰っていいか?」
他人の家の事情には無闇に首を突っ込むものじゃ、ないと思う訳だ。
「構わない」
「それで、話は戻るが戯言遣い。アンタの苗字は『井伊』で俺は"井伊さん"って呼んで良いのかい?」
いーさん。なんか、外人みたいだな。
「さっきも言ったと思うけど。好きに呼べば良いよ」
前を歩く、ソイツの歩みは止まらない。遅くも速くもならず、一定のリズムで歩き続ける。
井伊崩子さんとやらの兄が死んだ話をした時も。
自分の名前を口にした三人が例外なく死んだ話をしていた時も。
その足は淀み無く。その唇は淀み無く。
どこか自分の事じゃないような、誰かから聞いた話をそのまま口に出しているだけのような印象を俺は受けた。
「なら、いーさん」
果たして人とはここまで「死」に対して無反応になれるものだろうか?
一体、どんな経験を、人生を歩んでいればこんな無感情になれるのだろうか?
不感症と不干渉の二つの言葉がそのまま人間になったような、ソイツ。戯言遣い。
「何かな?」
「俺たちは今、どこへ向かっているのかだけでも教えて貰えると助かるんだが。アンタに付いて行ってるのは別に世界の敵云々の話を信じた訳じゃなくて、どっちかと言うとあのバタフライナイフっ娘が怖いってファクタが大きいんだ」
「なるほどね。崩子ちゃんは確かにぼくも怖いな」
いーさんは振り返ると俺に向けて携帯電話を見せる。最新式のヤツだろうか。見た事が無い型だぜ、これ。
「それのGPSを頼りに歩いてるんだ。行き先は」
ピコピコと点滅する赤い印には「人類最悪」と地点名が付けられている。
「悪の秘密結社さ」
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