103: ◆XtjOmDyc46[saga]
2011/02/25(金) 19:09:28.62 ID:p8DvCwaco
行間 一
「どーいうことだ、こりゃぁよ」
いつもと違う雰囲気の研究施設に、男は声を漏らす。
普段から明るく綺麗な施設とは言えないし、どちらかと言えばジメジメした雰囲気の方が似合うような場所だ。
だが。
「オイオイ、冗談じゃ済まされねーぞ。今日は四月一日じゃねェだろーがよ」
長い白衣が乱れるのも気にせず、男は少しだけ早足で研究施設の奥へと向かう。
誰もいない。
何もない。
残されているのは、運び出せない据え置き型の機材のみ。
「ったく、泥棒さンにしちゃぁ、随分とスマートじゃねーな」
片っ端から、という言葉がこれほど似合う状況はないだろう。
文字通りに全て持っていかれたどころか、自分以外の研究員さえいない。
少しずつ早くなる足取りにも気づかず、施設の最奥へ向かう。
この施設の要、被験者たる人物が居るはずの部屋。
扉を吹き飛ばしかねない勢いで、男は部屋に入る。
当然のように、誰もいない。
「ギャハハハ! 傑作じゃねーか。こんなイイ年になってから仲間はずれなんてよぉ」
ドガァッ! と、男の拳が壁に突き刺さる。
当然、剥き出しのコンクリートはびくともしない。
男の右手から、赤い血が落ちる。
部屋に残されているのは、大きな姿見が一つ。
使っていたかどうかは分からないが、持ち主の姿は当然映ってはいない。
そこにいるのは、自分でも驚くぐらいに顔を歪めた男の姿のみ。
顔の左半分を刺青で覆った、おおよそ研究者には見えない姿だった。
『機嫌は良くないみたいだな、木原数多』
「白々しいなァ……やってくれんじゃねーか、学園都市の統括理事長さんはよ」
『今回のは私の判断ではないさ。統括理事会は五月蝿くてね』
館内放送から洩れてくる声は、非常にクリアだった。
電話でもこうはいかない。
脳内に直接話しかけて来ているのではないかと錯覚するほどだった。
349Res/214.49 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。