過去ログ - 俺の妹がこんなに可愛いわけがないSSスレ Part.8
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819:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)[sage saga]
2011/03/23(水) 03:37:59.31 ID:3bR2WwCzo
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それから月日は経ち、七月となった。つまり、俺が加奈子の専属となって三ヶ月が経ったというわけだ。
今日は初のテレビ収録である。
某テレビ局の芸人七人がホストを務める人気バラエティ番組へ、ブリジットと共にゲスト出演する。
この組み合わせになったのは、メルルコスプレイヤー時代の話も番組内でするためだ。
ここでお茶の間の知名度が上がって人気が出れば、彼女の夢である「アイドル」への道も開かれるだろう。

「失礼しまーす。飲み物買ってきましたー」

俺が外にあるコンビニから控え室へ戻ってくると、中には加奈子しかいなかった。ブリジットはトイレだろうか?

「来栖さん、いつものです」
「あ、ありがとうございます。……あ!?」

ブリジットのことは気にせず、俺は加奈子にいつものクラッシュタイプゼリー入りのカフェスイーツを手渡した……のだが。
彼女はそれを落としてしまった。そこで気付いたが、彼女の手は小刻みに震えていた。

「来栖さん?」
「ご、ごめんなさい!」

加奈子は即座に謝り、落としてしまったカップを拾った。けれど、震えは納まりそうに無い。

「緊張されてますか?」
「は、はい。その、少しだけ……」

そうは言うが、「少しだけ」緊張している程度では、この震えは異常と言えた。
それも無理はないと思う。なんせ、テレビ初出演が人気番組。相手はベテランの芸人さんだ。
怖い物知らずだった中学時代ならいざ知らず、この業界でそれなりに生きてきた彼女なら、そのプレッシャーに怖気づくこともあるだろう。
仕方ないとは思いつつも、俺は「らしくねーな」とも思ってしまった。それは、レイヤー時代の彼女を知ってるからだろうか。
それに、所属タレントの管理はマネージャーの務め。緊張をほぐすことも、その一つと俺は考えている。
俺は溜息を一つ吐き、胸ポケットから日差し除けのために持ってきたサングラスを取り出した。それは、七年前にも使用したものだ。

「らしくねーな」
「え?」

普段の丁寧語とは違う俺の言葉に、加奈子は驚いて向き直る。
あの頃とは髪形も違うし、共通点なんてサングラスだけだ。それでも、俺は「赤城浩平」を装ってきたあの時と同じ態度を崩さない。

「らしくねーって言ったんだ。アキバのUDXじゃ、たくさんのヲタどもの前で、あんなに堂々と歌って踊ってたじゃねーか」
「高坂……さん?」

加奈子は依然として驚いたままだ。だが、構うもんか。

「お前、言ってたじゃねーか。『ステージで歌うのは楽しかった』って。『カワイイって褒められるの好きだし、あたしのパフォーマンス見た奴らが喜んでんのとかさ、気分いーし』って」
「……」
「あの時と何が違うんだよ?メルルイベントと、この番組収録に差なんてあるのか?無えだろうが。あの時の『不敵な来栖加奈子』はどこに行っちまったんだ?」
「……」

詭弁だということはわかってる。あの時と今とじゃ、何もかも違う。
それでも、こんな弱気なコイツは見ていられなかった。なんでそんな気持ちになったのか、それはわかんねえけどよ。
とにかく、見ていられなかったんだよ。

「黙って聞いてりゃ、好き勝手言ってくれるじゃねーか」

それまで黙っていた加奈子が、声を発した。いつもの丁寧な口調ではない、『あの時』のような糞生意気な口調だ。
加奈子は立ち上がると、俺をビシッと指差した。

「糞マネのくせに、この加奈子さまにせっきょーくれてんじゃねーよ。こんな収録、ラクショーに決まってんじゃん」
「そうかい。んじゃ、いつものようにブチかましてこいよ」
「はっ。言われるまでもねー」

俺の激励を突っぱねて、加奈子はあの時のようにイヒヒと笑った。
もう大丈夫だ、俺はそう思ったよ。


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