過去ログ - 長門「------の消失」
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3:松本晶[saga]
2011/03/03(木) 15:46:49.56 ID:2rhgDyLL0
* * *

 彼の残していったものはそこら中に有った。その一つが、これ。

「さて、今日も不思議探索に出るわよ! 有希と鶴谷さん。みくるちゃんと古泉君とあたし、で別れて、駅の東西を廻りましょう」

 彼が居なければ存在することもなかった、それこそ不思議そのものと言えるこの一団。涼宮さんと、古泉君が彼から聞いて、それをなぞるように行っている。

「有希っこ、よろしくねっ」

「・・・・・」

 生来の人見知りで知らない人に声を掛けることすら出来ない私は、せっかくの元気良い挨拶にも軽い首肯しか返すことが出来なかった。けれど、鶴谷さんは満足そうにしてくれている。

 彼が------いえ、涼宮さんによれば、別の世界の涼宮さん自身が集めたこのメンバー。この集まりは本当に優しい空間だ。

「ほらほら、有希っこはただでさえ寡黙なんだから。ちゃんと喋らないと助けも呼べないうちにお姉さんが食べちゃうにょろよ〜」

 頭の横でツノのように手を構える彼女。手を顎に当てつつ見守る古泉君。同じようにじゃれている朝比奈さんと涼宮さん。

 部室の中だけにいた時よりもずっと、私の世界は開けている。


* * *

 鶴屋先輩と私は指示された圏内にある図書館に居る。

「有希っこの行きたいところくらい、私にも判るよっ」

 そう言って彼女は私をここに連れ出してくれた。まともに不思議を探そうとしていないようにも見えるし、実際にその通りだ。涼宮さんもきっと鶴谷さんのこの態度を殊更に責めることはしないだろう。

 涼宮さんが探しているのはきっともう、不思議だけじゃない。目的は居なくなった彼であり、日常に潜む幸せそのものでもある。いつ訪れるか判らない超常を諦めないでいても、幸せの青い鳥を見失わない。

 一旦彼という最高の不思議を見つけてしまった涼宮さんは、焦燥を失ったんだろう。古泉君から聞くに、彼女は不思議というものを周りの迷惑すら顧みずに全力で追い続けていた。それはきっと不安の裏返しでもあった。団員だけにと教えてくれた、七夕の日に涼宮さんが校庭に書いた宇宙へのメッセージ、「私はここにいる」。それを見つけてくれた、『地球から来た異世界人』が居たからこそ、自分の周りに目を向ける余裕も出てきたのに違いない。言えば世界は応えてくれるという、簡単だけれど得難い真実が涼宮さんを解き放ってくれたのだろう。

 私の交友関係は未だに広いとは言い難い。

 朝倉さん。古泉君。涼宮さん。鶴谷さん。朝比奈さん。この小さな輪の中でしか私はまだ生きてはゆけないけれど、きっとこうした彼の影が世界のどこかにある限り、私は悩んでも生きていけるだろう。



じんわりと暖かくなった心を抱えて、私は受付に本を出した。


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