過去ログ - 美琴「おかえりなさい、とうま」
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157:1だよ[sage saga]
2011/03/31(木) 12:06:37.64 ID:ho39OfvX0

【少年】


「……………これで連絡は終わりです。
 お昼で終わりだからって、みなさん浮かれ過ぎないで下さいねー」

担任が出ていくのを見計らって、教室内は一気に喧騒に包まれる。
クラスメイト達は先ほどの注意を聞き入れる気が無いかのように、これからの予定を話し合っていた。
たとえばそれは、友人同士で遊ぶ約束や、どこに行くか、どんなことをして過ごすか等々…
しかし悲しいかな、その中には甘酸っぱい色恋モノが無いのは、皆がそれに縁が無いことを暗に示唆している。

それは少年自身にも言えること。
彼には年相応に恋愛に興味はあるものの、誰かに恋などしたことは無かった。
というよりは異性との縁に諦めを持ってしまっているので、
女の子をそんな目で見たことが無いという表現が正しい。

「あるぇー? かみやん今日は補習はどしたん?」

「かみやんに補習が無いとなんか違和感があるにゃー」

「それはアレか? 喧嘩売ってんですか二人とも?」

青く染めた髪、耳にピアスを付けた友人が土御門と共に話しかけてきた。もとい喧嘩を売ってきた。

「小萌先生が日頃の上条さんを憂いて今日はお休みにしてくれたんだよ。
 (追加課題は出るらしいけどな…………………………はぁ)」

「もったいないわ。ボクなら土下座してでも、補習して下さい!!って頼むで」

「それじゃあ小萌先生の気遣いを無碍にすることになるにゃー」

「あかん! それ困る! なにこのジレンマ!? どっちに転んでも地獄やねん!!?」

「一回病院行くか? 腕の良い医者知ってるから紹介するぞ?」

「かみやん。どれだけ医療技術が進歩しようともコレは誰にも治せないにゃー」

こんな馬鹿馬鹿しい会話が少年にとっては、ささやかながら癒しとなる。
独りではないから。部屋に戻った時のあの孤独感に苛まれることがないから。
今は恋愛などと高望みはしない。ただ、傍に誰かがいてくれるだけで良い。
そんな風に三人で友人同士の会話を楽しみながら、学校から出ようとしたところで青ピが話を切り出した。

「かみやんは午後暇なわけやね?」

「へ? まあ、そうなるな」

「じゃあ、久々にデルタフォースでゲーセンにでも行かへん?」

「………良いな。行くか」

最近は色々と忙しかったせいか、遊びに行くことなどしていない。
小萌先生はゆっくり休めと言っていたけれど、友達と過ごす時間のほうが良いと思うのだ。

少年はインデックスを失っても、表面上はなんら変わりはしなかった。
彼がロシアから帰還した後に待っていたものは、日常においての責務。要するに学生としての義務。
どれだけ少年が世界を股に駆ける英雄であろうと、ここでは一介の学生に過ぎない。
様々な事件のおかげで平常授業を受けていないので、このままでは間違いなく進級が危ぶまれる。
だから特別授業、補習、課題を済ませなければならない。そんな毎日が続いていた。

最初はそれで良かった。
悲しみに浸るよりも日常生活を過ごすほうがいくらかは建設的だから。
インデックスがいないという事を除けば、少年は外では普通だった。
授業を受け、補習に追われ、課題に奮闘する、そんな高校生の日常。

しかし。

それは部屋の外での日常。
少年の住む部屋の中にはソレがない。失われてしまった。
どれだけ忙しい時間を過ごしても、目を逸らしても、最終的に彼を迎えるのはシスターのいない現実。

いつまでも日常に帰ることができない現実。

きっと今でも少年は非日常にいるのかもしれない。
大切な人は、守りたかった想いは、全てあの場に置いて来てしまったから。
中身を失い、残ったのは外側だけ。


空虚




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