81:nubewo ◆sQkYhVdKvM[saga]
2011/06/01(水) 03:38:14.24 ID:7hpdMmcko
「髪。ちょっと梳くね」
「ああ。……って、手伝っても大丈夫か?」
「え? お願いしてもいいの?」
「おう。でも慣れてるわけじゃないから下手かもしれないけど」
「大したことじゃないよ。根元からさっと櫛を通して整えるだけだから」
姫神から櫛を渡される。姫神の後ろに回って、そっと髪を梳いた。
寝乱れた髪はところどころほつれを作り、そこに引っかかるたびに櫛が止まる。
それを指で一つ一つ解いてやって、長い髪を整えた。
「人に髪を触ってもらうのって気持ちいいよね」
「……俺以外の男でも?」
「もう。美容師さんだったら。そうだけど」
「ああ、それはそうか」
「でも当麻君は別だよ。……このまま頭撫でてもらって。二度寝したいな」
「それでもいいけどな。インデックスをこっちに呼んで、俺はメシを作っとくから」
「あは。駄目な彼女さんだね」
「たまにはいいだろ」
「うん。でも。今日は当麻君の家で私がご飯を作ってあげたいの」
眠気を振りほどくように、姫神は伸びをした。
「それじゃあ、行こっか」
女子寮を抜けるのに少しスリリングな思いをしてから、二人で男子寮のエレベータを上がる。
二人っきりの時間はまたこれで終わりで、すこし、物足りない気持ちもある。
「何を食べたい?」
「んー……難しいよな。だいたいいつも、冷蔵庫の中身と相談して決めるし」
「私もそうかも。それじゃ家に入ってから決めよっか」
「だな。まあ、さっさと作らないとインデックスがどんどん不機嫌になるんだけど」
姫神はそれに応えず、上条の腕をちょっと強めに抱きなおした。
胸の当たる感触が気になる。
「今日。ご飯を作ってあげたい理由はね」
「ん?」
「当麻君に食べて欲しいからが半分で。もう半分は当麻君のご飯をあの子に食べさせたくないから」
つまり、上条とインデックスは恋人ではないのだと三人とも分かってはいるが、まだ割り切れない思いがあるということだった。
「不安にさせて、ごめんな」
「私こそ。勝手に不安になってばかりでごめんね」
「いいって。自覚はなかったけど、俺が秋沙を不安にさせるような生き方してるから、まずいんだよな」
上条は姫神の髪をそっと撫でた。さっき整えた髪は光沢を放っていて、綺麗だと素直に思った。
「そんなこと考えたこともなかったけど、意外と上条さんはもてたってことなのかね」
「自覚がないのが良くないよ」
「って言われてもなあ」
自嘲というか冗談のつもりで言ったはずの言葉に、真顔で返されて上条は困るのだった。
「俺が惚れてるのは秋沙だけだから。ずっと、一緒にいてくれ」
「死が二人を分かつまで?」
「……ああ」
「ふふ。よろしくお願いします」
「ん、こちらこそ」
夕暮れ時の上条の部屋の前で、二人はそっと、軽いキスを交わした。
これからも、ずっと二人が幸せでいられますようにと。
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