過去ログ - 唯「いでおん!」
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3: ◆INjIt6nmxE[sage]
2011/03/17(木) 11:11:48.88 ID:DI7Rv+qu0
かさかさ……。かさかさ……。
「……んっ」
遠くで何かが擦れるような音がし、唯の意識は瞬く間に戻った。
(何だろう……)
むくりと上体を起こすと、人影がこちらに向かってくるのが見えた。
そして、木漏れ日に照らされた顔がゆっくりと唯を見つめる。
「……」
「……」
女の子だった。
歳は唯と同じぐらいかそれより下だろうか。綺麗な黒髪を左右に結わえて、ツインテールにしている。そして、瞳は燈色で大きく可愛らしい顔立ちだ。
「あ、あの……」
唯が声をかけると、その子は少し後ずさる。
「ご、ごめんなさい。勝手に入ったりして……」
この土地の人かと思い、唯は謝りながら立ち上がる。
女の子は何の反応もせず、ふらふらと唯に歩み寄ってきた。
「あ、あの……」
何か様子が変だ。
そう唯が思った途端、女の子はかくりと力が抜けてその場でくず折れていく。
「わぁっ! ととと!」
唯はすかさず手を伸ばし、その華奢で白い体を抱き止める。
「ねぇ、君! 君!」
唯の腕の中で女の子は何度か肩を震わせて、うめき声を漏らした。
「ど、どうしよう……。熱中症かな」
おろおろとしながらもその子を横にし、携帯を取り出す。
「えっと、救急車……」
ダイヤルを押していると、手を掴まれた。
「えっ……」
女の子は唯の手を掴んだまま携帯を取り上げた。
「ち、ちょっと、何するの?」
唯が携帯を取り返そうとすると、女の子はさっと引いて避ける。
「……」
何か言いたげな目をしているが、女の子は何も言わない。
軽くため息をついて、唯は女の子を見つめて言った。
「わかった。電話しないから返して?」
唯は優しく問いかけ、手を差し出す。
「ね?」
「……」
女の子は渋々といった感じで携帯を返した。
「まったく、急に倒れちゃうからびっくりしたんだよ?」
女の子は黙ったまま唯の顔を見つめていた。
「でも、よかった。元気そうだね」
唯が笑いかけると、女の子はゆっくりと口を開いた。
「あ……りがとう……」
それは何とも拙い言葉で、弱々しかった。
「うん。でも、気分が悪いのなら家に帰ったほうがいいんじゃない?」
「……問題ない」
「も……問題、ない? 難しい言葉を話すんだね」
唯は違和感を覚えたが、不思議と嫌ではなかった。女の子の可愛らしい声は耳をくすぐるようでとても心地よかった。
少し黙ると、女の子はまた口を開いた。
「大丈夫ですから、心配しないで下さい」
「そ、そう?」
「はい」
女の子はそっと微笑んだ。
(か、かわいい……)
今まで見たこともないぐらい綺麗で、そして可愛い表情だった。綺麗と可愛いは相容れないものだと思われるが、これは別だった。
唯はただその顔に見惚れ、視線をそらせずにいた。
「……」
女の子も唯の瞳を見つめ、不思議な雰囲気が漂う。

風はしばらく2人の間に吹き抜けていた。



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