過去ログ - 美琴「私が一万人以上殺した、殺人者でも?」
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355:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2011/04/16(土) 20:52:34.43 ID:T/pyK9RXo
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「やれやれ、相変わらず嵐のような人だね……」

 煙草の一つでも吸って気分を晴らしたい所だが、生憎書庫と言うロケーションがそれを許さない。
 さっさと”仕事”を終えて愛するニコチンとタールにありつきたいと思いつつ、ステイルは手に取った本を傍らの棚に乱雑に積み上げた。

 所属も担当も違い、普段から密に交流があるわけでもないが、一度会えば強烈な印象を残していくこの皮肉屋でひねくれ者の女魔術師はステイルにとっても苦手な相手だ。
 だからと言うわけではないが、彼女が「最早用は無い、アデュー」とばかりに悠然と去った後も、その開けっ放しの扉を見詰め続けていた。
 そして、充分に時間が経った後、沈黙が書庫に染み入ったのを確認し、そっと右手を耳元に伸ばした。

「……言われた通り来ましたよ。ええ、ほぼ言われた通りの時間にです」

 薄闇に包まれた書庫には、ステイルの他に誰も人影がない。にもかかわらず、まるで目の前に話し相手がいるかのように、ステイルはそっと小声で呟くように誰かに話しかけていた。 

「はい、ですからそれも言われた通り渡しました。疑われてはいるでしょうが、それも計算の内なのでしょう?」

 懐に忍ばせた栞のような紙切れと、右耳にぶら下がるピアスの内の一つが僅かに振動し、ステイルにだけ聞こえる声を届けている、いわゆる二つで一セットの遠隔通話用の霊装だ。

「ていうか、僕としては貴方がなんで彼女がルーンをねだりに来ると分かっていて、敢えてそれを渡すように言ったのか甚だ疑問ですがね。……いえ、いいです。長くなりそうなので遠慮しておきますよ」

 霊装越しに聞こえてくる声が如何にも愉快そうな声色なのを感じ取り、ステイルは本日一番の溜め息を吐いた。

「僕が逆らえないのをいい事に、これ以上余計なことに巻き込まないで下さい。おかげでそんな事実もないのに貴方専属のエージェントみたいに噂されてこっちはホント迷惑なんですよ」

 霊装の向こうの声が余計に愉快そうに弾むのを、ステイルは頭痛さえ感じながら聞き流す。何故今日はこんなにも苦手な相手とばかり会話させられるのだろうかと、呪詛のように心で呟きながら。

「……はぁ、分かりましたよ。とりあえずもう少し頻度は落として下さい。それじゃ、御機嫌よう――」

 ランプの火が揺れ、闇が蠢く中、赤髪の魔術師が通話を打ち切るように声を潜めてその名を呟く。

       アークビショップ
「――――最大教主」

 それきり、ピアスも懐の栞も振動を止め、薄暗い書庫に沈黙が降りる。
 静寂の中、赤髪の魔術師はじっと目を閉じたまま、闇に溶け込むように佇んでいた。
 何か考え事をしているのか。或いは辺りの気配を探っているのか。その真意は彫像のように固まった彼の姿からは感じ取れそうにもない。

 やがて、ステイルは目の前の資料棚から目的の本を抜き取り抱え込むと、音も立てずその部屋を後にした。




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