過去ログ - 俺の妹がこんなに可愛いわけがないSSスレ Part.9
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57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)[sage saga]
2011/03/27(日) 22:05:23.05 ID:VzcOF4WKo
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俺は今、とある会場の喫煙スペースで煙草を吹かしている。
あれから俺たちは、オーディションに向けて動き出した。日程を調整し、普段の芸能活動に支障を来たさないようにした。
ボイトレのトレーナーに頼み込み、送付用の歌唱データを録音した。
一次審査を通過し、全国七箇所で行われた予選大会を勝ち抜き、そして今日、最終審査を兼ねた決勝大会の日を迎えた。
6,000組を超える応募者の中から勝ち抜いた10組が、6人の審査員と2,500人の観客が身守る中、今日この場で雌雄を決する。
俺に出来ることはもう無い。あとは加奈子が、決勝ステージで自分の力をフルに発揮してくれることを祈るばかりだ。
そろそろ決勝が行われるホールに戻ろうとした矢先、胸ポケットに仕舞っているケータイが震えた。
ディスプレイには『メール着信 1件』と表示されていた。送信者は、今はファイナリスト用の控え室にいるはずの加奈子だ。

『今すぐ、控え室前に来てください』

本文にはそれだけしか書かれていなかった。
何かあったのだろうか?俺はケータイを仕舞うと、急いで加奈子のところに向かった。




「すみません。突然、お呼び立てして」
「いえ。それより、なにかあったんですか?」

スタッフに無理を言って裏に通してもらい、俺は控え室前までやってきた。
加奈子はすでにそこにいて、壁に寄りかかって俺を待っていた。

「高坂さん。あの、少しの間だけ……目を瞑っててくれませんか?」
「はい?」

なにか火急の用があるのかと思いきや、いきなりこれである。はっきり言おう。ワケわからん。
加奈子はそれだけ言うと、俯いてしまった。なにやらもじもじしているが、緊張しているのだろうか。意図はわからんが、俺は素直に従った。

「これでいいですか?」
「はい。まだ開けちゃ駄目ですよ。ちゃんと目を瞑っててくださいね」

俺の視界は、未だ暗闇の中だ。いや、何かチカチカしてるな。ああ、瞼の裏かコレ。
さて、ここからどうするのだろうか。そんなことを考えていると、甘いコロンの香りと、温かく柔らかな感触を感じた。

「あの、来栖さん?」
「まだ!まだ開けちゃ駄目です!」

加奈子が大きな声で俺の動きを制す。
俺の胸から、温かさが伝わってくる。柔らかな感触は、俺の脇を伝い、背中にも感じられた。
甘い香りと心地よい圧迫感。目を瞑っていても、加奈子が何をしているのかはわかった。
自分の心臓の音がはっきり聞こえた。うるさいくらいだ。
どのくらいそうしていただろう。おそらく十数秒ほどだ。衣が擦れる音と共に、俺の体を支配していた感触が消えた。

「も、もういいですよ」

目を開けると、加奈子が立っていた。さっきよりも、俺との距離が近い……気がする。
加奈子は頬を赤らめ、俺を見上げていた。お互い声が出せず、しばらく見つめ合う。
すると、加奈子がイヒヒと笑った。

「もう大丈夫。大丈夫です」

口調はいつもの丁寧なものだ。表情だけが昔のまま。
何のためにあんなことをしたのかはわからない。けど、加奈子の表情を見て、俺は安心できた。
さあ、もうすぐ時間だ。俺はホールに戻るため、加奈子から離れた。

「おーい、糞マネ」

背後から声を掛けられ、首だけで後ろを振り返る。
加奈子はまだイヒヒと笑って、こちらを見つめていた。

「煙草、少しは控えろよ」

昔の口調で放った言葉は、およそ今の状況とは関係ないものだった。


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