過去ログ - 男「また、あした」
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11:>>1[saga]
2011/03/28(月) 21:32:21.84 ID:gJVBoKdj0
かくして初日。
夏原はおらず、春野さんもいなかった。春野さんは生徒会か何かで忙しいから遅れるとのこと。夏原は単純に稽古があるらしかった。
いきなり冬森さんと二人きりになったので、とても気まずい。宛がわれたこの空き教室はどうも二人では広すぎる。
さて困った。冬森さんもそれは同様らしく先ほどからちらちらとこちらの様子を伺ってくる。
気になりすぎて大本のお話の構想を練るのに集中できないといった様子だ。
これは、よくない。何か責任めいたものを感じると同時に、僕的には最大限の勇気をもって、冬森さんに話しかけることにした。

「そういえば」

 僕がそう口を開くとほぼ同時に、冬森さんのその小柄な身体が僅かに震えた。他人の目から見た僕というのはこんな感じだろうか?
夏原が見ていれば本当にそっくりだとからかってきそうだ。ともかく、これはお互いのためにも会話ぐらいには慣れたほうがいい。
苦手苦手といって避けていたのでは潤滑に製作はできなくなる。
絵本を作るには、やはり二人の作者にはそれなりのコミュニケーションが必須といえよう。僕はそのまま言葉を続けることにした。

「よく、僕なんかを誘う気になったね」

 彼女は僕の発言に意外そうな顔をして、その薄い唇を開いた。
それも、おっかなびっくりという表現が似合う。お互いに、慣れないことをしているというのが丸分かりだ。

「絵本をつくりたい、って私と同時に呟いていたので……」
「それはそうなんだけど。実はというと、僕も君を誘おうかと少しだけ思ってたんだ。でも、君みたいに勇気がなくてね。このことは、諦めるって決めていたぐらいなんだ。だから、よく君は異性である僕を誘えたね、って思って」
「ああ。春野さんが、是非って。春野さんから、秋川君のことを聞いたんですよ」

 驚いた。僕と夏原に似たやりとりを冬森さんはしたらしい。夏原は怪訝そうにするばかりだったが、春野さんは僕を誘うように促したわけだ。それで、誘えたのか。冬森さんの中で春野さんの存在は結構大きな位置にあるようだ。
僕と夏原のような共利的な関係よりも、少しばかり踏み込んだものであるらしい。それにしたって、僕が夏原に同様の事を提案されたところで乗れただろうか?
多分無理だろう。僕が女の子に、一緒に絵本を作ろうと持ちかける。無理だ。多分じゃない。絶対だ。
それをやらせるまでに到らせた春野さんという人物は一体……。ひょっとしたら、とても恐ろしい人なのかもしれない。
冬森さんという間がなければ、恐怖の対象となっていたかも。


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