33:>>1[saga]
2011/03/29(火) 20:18:23.66 ID:NprJWFFv0
「不思議と、秋川君は怖くないんですよ」
「え?」
心の中を読まれるのは、あまり気持ちいいことじゃないな。
「絵本が好きな人に、悪い人はいないと思うんです」
「僕にその考えが当てはまるかどうかは……」
「春野さんが、太鼓判を押してくれました。秋川君は安全だって」
「安全って。……まぁ、そう評価してくれるのは悪く思わないけど」
そんな食品みたいな評価もらってもなぁ。とかそんな気はする。それに春野さんが僕をそう判断する根拠というのもよくわからない。
最近の世の中を見るに、危ない人というのは案外、僕みたいな大人しい人の方が多いような気がする。
見た目からして悪い人は常日頃小さな悪いことをしているから何かしでかしても周りの人の感覚がある程度麻痺しているので、軽く受け止められるが、色々と抑圧してきた人が何かをやらかすとそのギャップから大騒ぎになるという。
これで言えば僕ってば結構危ない人に見られているかもしれない。まぁ、実際のところは人畜無害……だと思いたい。
「秋川君は、どうですか」
不意に、冬森さんが立ち止まった。振り返って、僕を見つめてくる。
「私のこと、どう思います……か?」
冬森さんは先ほどまで浮かべていた、無防備な笑みではなく、どこか緊張したような張り詰めた表情を浮かべていた。なんだか、喉が渇いてくる。
「冬森さんは、怖くない」
僕は言葉を出すのもやっとで、そう消え入りそうな声で言ってから、続ける。
「ただ、誤解は受けたくない」
近いって。なにこの距離感。あと、前言撤回するようだけどすごく怖いですよ。
僕がそんな困ったようなことを言うと、冬森さんは少し慌て、照れたようにしながら距離を開けた。恐らく素だったのだろう。
この子の隠されたポテンシャルというものが少し見えた気がする。おっかない。おっかないとうより、心臓に悪い。
「ご……ごめんなさい」
「いいよ。大して気にしてない。それで、家はどこなのかな。まだ遠い?」
「いえ、ここで大丈夫です。ありがとうございました」
「ん。じゃあ、またあした」
「はい。また、あした。楽しみにしていますね」
そう言って、冬森さんは笑顔で駆けていった。僕も着た道を戻り、帰路へつく。
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