過去ログ - 男「また、あした」
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32:>>1[saga]
2011/03/29(火) 20:15:32.31 ID:NprJWFFv0
そんなわけで、僕らが向かったのは公園だった。
この公園はベンチとテーブルが設置されており、やろうと思えば食事なんかがそこで取れる休憩所のようになっている。
壁でもあればいいけど、生憎とあるのは屋根ぐらいなものだ。ここで二人してケーキを食べようというのだから、そりゃ恥ずかしい。

「飲み物も欲しいですよね」
「僕、買ってくるよ。これぐらいは奢る。何がいいかな」
「いいんですか? じゃあ、私はコーヒーで。甘さは任せますね」
「了解。少し待ってて」

自販機もそう離れてない場所にある。僕が買うのも当然コーヒーである。缶コーヒーはあまり美味しくない。
それもブラックは相当美味しくない。缶コーヒーのブラックだけは絶対にいけないのである。なのでこの場合、微糖が好ましい。
僕はコーヒーを二つ買って、冬森さんのところへ戻った。
見ればすでに箱を開封しているところで、冬森さんは鞄から紙皿とコンビニなんかでついてくるプラスティックのフォークを取り出していた。
(なんで携帯しているんだろうとか思うけど、そこは女の子の不思議ということにしておく)

「買ってきたよ。これでようやく食べられる」
「なんだか、思わぬところで食べることになりましたけどね」

何が楽しいのか冬森さんはそう言って笑った。なんだか、僕より先に彼女のほうが僕という異性に対して順応しているように見える。
それでいて、僕がやるような仮面みたいな素振りでもなさそうなのだから、女の子という生き物の底の深さがうかがえるようだ。
自分と似ているから、ということを考慮しても、それでも僕は男なのであるから、もうちょっと壁じみた何かを感じてもよさそうなものだけど。
ともあれ、僕らはようやくチョコケーキにありついた。口の中で広がる甘さと、このほろ苦さがたまらない。
一口食べて、少しコーヒーを口に含んで、また一口食べる。ああ、至福の時だ。クリームが、スポンジが、チョコが。
全てが僕を喜ばせる。たまらず、たちまちにケーキは僕の胃袋に納められた。ごちそうさま。
顔をあげると、僕よりも少し遅れて、冬森さんも同様に完食したところだった。

「美味しかったです、とっても」
「やっぱりマーブルのチョコケーキは最高だね」
「高いんですけどね」
「その分の価値はあったよ」

満足したところで僕らは簡単に片付け、公園をあとにした。これで僕に残されているのは冬森さんを家まで送ることだけだ。
僕はこのとき、夏原を呼ぶことはすっかり忘れていた。彼女はさきほどのケーキの余韻に浸っている様子で、嬉しそうな表情で僕の隣を歩いている。
一方僕は作り笑いを浮かべていた。両者の差は結構大きい。これがもう少し安全な状況なら僕も作らなくても笑みが零れたのだろうけど、少しばかりこれは僕にとって安全じゃない。
知人友人の類に遭遇したくないからだ。それは冬森さんも同様なのだろうが、変に安心しているか油断しているかのどちらかだろう。


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