過去ログ - 男「また、あした」
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85:>>1[saga]
2011/04/03(日) 23:24:27.11 ID:hebi0UqT0
「勿論――僕には、君が必要だ」

できるだけ慎重に、強くそう言った。僕が今でも彼女を必要としているのは間違いようの無い事実。では何故必要としているのか。
前述したとおり、僕らの間柄は、平行線を辿っていても何ら不自然ではない。それでも僕は彼女と交わっていたいと考えている。
冬森さんと話し、接していたい――人として、或いは友人として。彼女に、僕の意図がどれだけ伝わっただろうか。
冬森さんはどこか思案げな顔を浮かべ、しばらくしてまた口を開いた。どこか遠回りな、このやり取り。背筋が冷えるような感覚がする。

「どうして、ですか」

彼女のその、震えた声。消え入りそうな小さい、微かな声だ。ともすれば聞き逃しそうなそれを、僕は逃さない。
お互いに、なんとなくお互いが言わんとしていることはわかっている。それでも、こんな言葉遊びをするのは、お互いに自信がなくて、お互いに傷つくのを恐れている証拠だ。
この平和な関係が崩れるのを心のどこかで躊躇している。それでも、踏み出さなければ事は始まらない。
そして、踏み出すとすればそれは僕からだ。恐らくは、それが昔から言われる「男なら」なのだろうから。

「そうだね。なんだろう――多分僕は、冬森さんと一緒にいたいんだと思う」

彼女の問いに、そう曖昧に答えた。冬森さんは、それに対して少しばかり言葉が詰まった様子で、なおのこと表情を硬くさせていた。なので、僕は言葉を続ける。

「逆に、どうして冬森さんは僕が必要なのかな」
「おんなじ、ですよ」

やや語調を強めながらも、それでもまだどこかたどたどしく言う。おんなじということは、彼女もまた僕と一緒にいるということを望んでいるということだ。
これだと、殆どお互いに告白したに等しいが、まだ「友人として」という逃げ道が残っている。
臆病な僕らでは、そこに逃げてしまうのは想像に難くない。自ら退路を潰すのは趣味でない。
でも、最初にこの言葉遊びを始めた冬森さんの事を考えるなら、そうしたほうがいい。

ここは一つ。思い切って、オーソドックスに足を踏み入れよう。

「僕は、冬森さんのことが好きだよ」

少し勇み足だったかもしれないが、ここまできては後に引けない。今まで微かに感じてきて、夕暮れの日にはっきりと自覚した感情を、彼女にぶつける。

「はい、私も。秋川君が、好きです」

冬森さんは顔を赤くしきって、声を震わせながら返事を返してきた。この、短い言葉をお互いに伝えるだけで、どれだけの回り道をしたのか。
僕ららしいとも言えるが、あまりにも臆病すぎると誰かに言われるかもしれない。でも、これでも僕らなりの努力の賜物なのだ。文句を言われる筋合いは無い。


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