過去ログ - 神裂「鋼盾―――鋼の盾ですか、よい真名です」
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7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2011/04/30(土) 17:29:05.55 ID:6y6jF+0c0

 彼の父親はまさに「鋼の盾」という言葉を体現したような人物だ。
 上背こそないものの、がっしりとした身体で、寡黙だが皆から頼られる強い人。
 母親もそう。穏やかだが芯のしっかりした、しなやかな強さをもった人。

 その二人の子どもなのに、自分だけが、こんなにも弱い。
 人見知りで、運動が苦手で、太り気味で、友達が少なくて、やることなすこと上手くいかない。
 そんな弱い自分を変えたくて、勇気を出して学園都市の中学校を受験した。
 両親は心配したが、息子の決意を応援してくれた。がんばれ、そういって彼を送り出してくれた。

 そうして、彼は学園都市にやってきた。
 異常に科学の発達した不思議の街でひとりきり。そんな事態も、この街では珍しくも無い話だ。
 親元を離れての寮生活に不安になりながら、それでも少年はがむしゃらに時間割に取り組んだ。
 「記録術」「暗記術」という名の、脳開発。座学、投薬、電極、暗示、エトセトラエトセトラ。
 ホームシックにかかり枕を濡らしたことも、無理を重ね体調を崩したこともある。
 それでも、山のようなカリキュラムをこなし、最初の一年があっという間に過ぎた。

 そして、はじめての身体検査を迎えた。
 計測機械が弾き出した結果は、彼が「無能力者」という判定だった。

 甲子園を目指す野球部は、全国に山のようにある。
 毎日白球を追いかけ、練習を重ね、理論を学び、経験を積み、身体を創る。
 ただ、その半分の学校は、大会初戦で一勝も上げることなく敗退するのだ。
 そんな、予定調和のありふれた悲劇。そして彼は負けた側の人間だった。


 「無能力者から努力してレベルを上げた例はたくさんある」
 「誰も最初から能力が発現するわけではない」
 教師はそういって鋼盾を励ましたが、その言葉が彼に響くことはなかった。

 結局、何も変われなかった。
 この一年に、彼の決意に意味などなかったのだ。

 それを突き付けられて、鋼盾は自分を信じられなくなってしまった。

 「自分だけの現実/パーソナルリアリティ」を作り上げ、突き詰め、磨き上げること。
 それこそが能力を引き出す鍵であり、また支える支柱でもであるのだというならば。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・
 己を信じることの出来ない自分には、絶対に能力が目覚めることはない。
 
 そんな確信がストンと腑に落ちた。
 皮肉な話、それこそが彼が作り上げた強固な「自分だけの現実」だったのだ。


―――――――


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