721:にゃんこ[saga]
2011/10/26(水) 20:59:25.13 ID:2qeuKkVP0
「そうそう。
私達の髪型の事なんかより、純ちゃん達はどうしたんだ?
もう帰っちゃったのか?」
梓は私の考えに気付いてたらしく苦笑してたけど、
「そうですね、純は……」と私の振った話題に乗ってくれた。
恩に着るぞ、後輩よ……。
「純は憂と和先輩と一緒に帰りました。
何か今日のライブに触発されたみたいで、
明日、私の家で『No, Thank You!』の楽譜を見せてほしい、って言ってましたよ。
あ、そうだ。
そんなわけなんで、純に楽譜を見せてもいいですか、ムギ先輩?
作曲者はムギ先輩だから、一応許可を取っておきたいんですけど……」
「勿論よ、梓ちゃん。
私達の曲を好きになってくれて、
演奏しようと思ってくれるなんて、こんなに嬉しい事はないもの。
作曲者冥利に尽きるって、こういう事なんだって思うな」
幸せそうにムギが笑う。
私が髪型の話題とは違う話題に変えた事は、全然気にしてないみたいだった。
それは勿論嬉しいんだけど、
純ちゃんが『No, Thank You!』を好きになってくれた事はもっと嬉しかった。
純ちゃんだけじゃなく、今日ライブに来てくれた皆の心に私達の曲が少しでも残ってるといいよな。
明日世界は終わるけど、これから一瞬でも私達の曲を思い出してくれたら嬉しい。
実は前触れがあるものなのかどうかは分からないけど、
もし明日来る終末に何らかの前触れがあったなら、
その瞬間から私は澪と一緒に『No, Thank You!』を口ずさみたいと思ってる。
結局、照れ臭いのもあって、
放課後ティータイムの曲に私がメインで歌う曲は作らなかったけど、実は全曲口ずさめるんだよな。
誰も知らないだろうし、誰にも教えてないけどさ。
だから、最期まで歌ってやろうと思う。
多分下手だろうと思うけど、隣に澪が居るなら安心だ。
澪の綺麗な歌声を見本にしながら、終末相手に歌ってやれるだろう。
「さわ子先生は?」
荷物を手渡しながら、澪がムギに訊ねる。
そう言えば、ライブ後に一番に私達に駆け寄って来そうなさわちゃんの姿を見てない。
「私の衣装の見立てはやっぱり完璧だったでしょ!」
とか嬉しそうに言って来るのが、いつものライブ後なんだけどな……。
ムギは寂しそうに笑ってから、澪の質問に応じる。
「さわ子先生は今から誰かと会う予定があるみたい。
私達が講堂を片付けてる途中に、
「いいライブだったわよ」って言って、講堂から出て行っちゃったの。
これから飲み明かすとも言ってたから、
お友達と会うんじゃないかって思うんだけど……」
相手は紀美さんかな?
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれなかった。
さわちゃんに会えなかったのは残念だったけど、そんなに悔しいわけでもない。
私達とさわちゃんのお別れは、ライブ前にもう終わらせてるんだ。
だから、ムギも寂しそうではあったけど、その表情に悲しさや後悔はないみたいだった。
それにしても、ライブ後に五人だけで集まれるなんて実は思ってなかった。
さわちゃんか憂ちゃんくらい、
私達と一緒に帰宅する事になるんじゃないかと思ってた。
多分、憂ちゃんもさわちゃんも、
純ちゃんや和も私達と一緒に帰りたいと思ってはいたはずだ。
でも、そうはしなかった。
私達を五人だけにさせてあげたいって、
五人だけで話をさせてあげたいって、そう思ってくれたんだろう。
気を遣わせちゃって申し訳ないけど、その好意を無駄にするのはもっと申し訳なかった。
私は心の中で四人にお礼を言ってから、梓に荷物を手渡して校門を後にする。
意を決した表情で、澪達も私に続いて校門を後にした。
737Res/756.99 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。