720:にゃんこ[saga]
2011/10/26(水) 20:58:49.31 ID:2qeuKkVP0
○
着替えを終わらせて校門に向かうと、
衣装の上に上着を羽織った皆が私達を待っていた。
「りっちゃん、澪ちゃん、おそーい!」
唯が腕を頭上に掲げながら頬を膨らませる。
そんなに遅くなったつもりはなかったけど、
紀美さんの事を考えたりなんかしてたから、思ったより時間が掛かってたのかもしれない。
そういう意味で唯は私達の事を遅いって言ったんだろうな。
「悪い悪い」と言いながら、私は唯達に荷物を手渡そうとする。
数秒、唯の時間が止まった。
そう見えるくらい、唯は私から自分の荷物を受け取ろうとしなかった。
受け取ってしまったら、遂に私達の別れの時間が始まる。
それを分かってるから、唯は自分の荷物を手に取りたくなかったんだろう。
私は唯に何も言わなかった。
唯の気持ちは痛いくらい分かるし、唯なら大丈夫だろうと信じてたからだ。
もう少しだけ、時間が流れる。
時間は止まらない。
何をしていても、時間を止めようとしても、別れの時間は刻一刻と迫って来るだけだ。
唯もそれは分かってたんだろう。
躊躇いがちにだけど、力強く私から自分の荷物を受け取って笑った。
「ありがと、りっちゃん。
……カチューシャ着けたんだね」
急に話題を変えられてちょっと焦ったけど、私も唯に合わせて軽く笑った。
「まあな。カチューシャは私のトレードマークだからさ。
やっぱりカチューシャ無しじゃ私らしくないじゃん?
前髪が邪魔ってのもあるけどさ」
「そうかなー?
前髪を下ろしたりっちゃんも可愛いと思うんだけど……」
「あんがとさん。
じゃあ、逆におまえがカチューシャ着けてみるってのはどうだ?
予備はまだあるから、いくらでも貸してやるぞ」
「ごめんなさい!
おでこ丸出しだけは勘弁して……!」
唯が自分のおでこを隠すみたいに両手で押さえる。
きっぱり出せ、きっぱり!
と言いたいところだったけど、
私が前髪を下ろすのを恥ずかしいと感じるように、
唯もおでこを出す事に何らかの恥ずかしさを感じてるんだろう。
切り過ぎた髪を誤魔化すためのカチューシャすら断ったくらいだからな。
よっぽど自分のおでこ丸出しに自信が無いんだろう。
だから、私はそれ以上、唯にカチューシャを強要しなかった。
困った時はお互い様ってやつだ。
……何か違う気もするが。
「でも、本当にりっちゃんの前髪下ろした姿って素敵だよ」
そう言ったのはムギだった。
しまった。
ムギはどんな髪型でも恥ずかしがらないから、今唯に使った誤魔化しが通用しない……!
私はムギから目を逸らして、全く違う話題を梓に振った。
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