783:すけこ☆マギカ[sage saga]
2011/07/17(日) 22:48:04.81 ID:utcPm39Ao
自覚しないがために、生きとし生ける者の命題を果たそうと、杏子の魂は、理性の奥の部分は、生きるために己を惑わし続ける。
生き続け、生き延びる。
魂の歯車がすり切れるまで。
そんな自浄機関も、ソウルジェムが砕ければ、すり切れるまでもなく崩れる。
藤の木は見る見るうちに大きく太くなった。その生長に呑みこまれれば、杏子は魂もろとも潰れてしまうだろう。さやかもだ。
それでもいいかな、と杏子は思ってしまった。
「一緒にいこーよ、さやか」
さやかは無言で、何も見えないし聞こえもしない様子だったが、杏子はそもそも返事を期待していなかった。
期待していなかった方が適わないのはいいが、期待していた方が適わないのはがっかりする。
誰も潰れはしなかった。白薔薇の樹が、藤の生長を妨げるように生えてきていた。
ミシミシと幹が噛みつき合う。二つの花の芳香が混ざり合う。
唐突に、虫達が粉塵と化した。それによって白薔薇が勢いを増したのは、キャパシティの問題だろう。藤が圧されだす。
視線に気づき、ようやく杏子は正気を取り戻した。
マミが横たわって、こちらを見ていた。
目が合って、杏子の頭がぐらり、と重量を増したのは、また呆ける事を拒んだからだ。
「杏子」
どうして助けてくれなかったの、と、その瞳は言っていた。
おかげでこんなになっちゃったじゃない、と、その腹が言っていた。
破裂しそうな、大きなおなか。
「……たすけて」
卵が、と言ったその口に、ひとすじ、涙が流れ込む。
杏子が答える間もなく、マミは大きくのけぞった。内臓が跳ねているかのようだった。
ばたつかせた脚が、膝が、膨らみを何度も強く蹴った。水分と空気の擦れる音を立てて、腹は急激にしぼむ。出てくる。
それは、白でも藤色でもない。タールの黒。虫でも花でもなく、魔法少女の姿。
マミのスカートから現れたのは、彼女自身の影だった。
843Res/753.17 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。