959:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage_saga]
2011/09/24(土) 23:58:43.82 ID:Y4SPWTf2o
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男の独白
初めて会ったとき、趣味の悪い人形のようだと思った。
まるで、人生のつまらなさや未来への失望なんかを、
かき集めて固めたような顔だ、なんて感想を持った。
「お前の義妹になる、少女だ。
仲良くしてやってくれると嬉しい」
温厚な笑顔に、ほんの少し悲しさをにじませた養父は、
その人形を義妹だと言った。
一瞬だけ湧いた嫌悪感は、けれどもすぐに鎮火させる。
俺には命をかけてでも果たしたい目的がある。
そのために、まず騎士団や軍に入りたかったのだが、
あと数年待たなければ相手にもしてもらえないのだ。
だから、身体が必要な大きさに成長するまでの間は、この家で面倒を見てもらう必要があった。
家族ごっこが必要なら、不本意だって参加しよう。
風変わりな義妹でも、無視していれば問題なんてない。
そう考えて、俺はただ、よろしくとだけ義妹に言った。
大好きだった母さん。
俺の唯一の家族は、海賊にヒドイ事をされたあげくに、
俺の目の前で殺されたのだ、
俺の命はそれを海賊に後悔させるために使うのだと、
何度も想像の中で呪い殺した神に、誓っていた。
しかし、この世の終わりのような顔を隠しもしない、
見かけただけで憂鬱になる年下の女の子との同居は、
おもっていたよりずっと、精神的な負担だった。
そんな不健康な生活に我慢できなくなるまでには、
そう時間もかからなかったように思う。
「本、好きなのか?」
「……よくわかんない」
「ちっ、ならちょっとついて来いよ」
気分が沈んだら太陽に当たるといい。
母親に聞いたそんな言葉を思い出したから。
「でも、外に出ると……」
「なんだよ、問題でもあるのか」
「肌が黒くなるって」
「ちょっとなら平気だろ。むしろ健康的だ」
「それに」
「なんだよ、まだあるのか」
「……町の子に見つかったら、石を、投げられるし」
「そんな顔してたら、そりゃいじめられるだろ」
「……」
「そんなに顔するな。俺が、お前を守ってやる」
そう言いくるめて外に連れ出した。
そこで初めて、目の前の小さな女の子の笑顔を見て、
少しだけ考えを変える事にしたのだ。
短い間とはいえ、同じ屋根の下に住む事になる。
笑えば多少マシに見えるとわかった。
なら、気が向いたら外に連れ出すくらいはしようと。
そうしていつしか自分の中で、養父と義妹に対して、
彼らを家族と認めても良いのではないかと、思い始めた。
その考えは甘く優しく、時間と共に傷を癒やそうと、
俺の心の中を占めていくようになる。
だから、自分からその暖かくて居心地の良い場所を、
もう二度と欲しないと決めて、飛び出したのだ。
別れの挨拶は、養父にだけ告げた。
騎士になるためには身分の証明が必要だという理由で、
これは感傷からではない。
例の海賊を殺した後に自分の命を絶とうという考えは、
復讐を決めた時に一緒に決まっていたからだ。
そんな決意で再開を求めそうな相手に声をかけるほど、
趣味が悪いつもりはない。
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