過去ログ - 一方通行「なァ木原くン。その楽園ではずっと一緒にいられるのか?」
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8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage saga]
2011/05/29(日) 22:16:18.62 ID:ZZs8tIq1o


「……はァ?」

つかの間の安寧に微笑みを浮かべようとして、何故かひどく無機質に響いたその声に冷水を浴びせかけられる。
男の白衣を掴む手のひらに無自覚に力がこもっていた。

――突然何を?

研究所の廊下のように白く機械的なそれに意図を計りかねて、少年は惚けた表情で男を見る。
しかし彼の瞳はそれには答えずにただ感情の籠らない無色の光を返すだけだ。

不安に揺れてうまく回らない頭脳をフルに回転させて。
そうして数秒の後、ようやっとその意味を理解して縋るような瞳で色のない男の瞳を見つめる。

「移動って、一体どこにだよ?」

おずおずと開いた唇から漏れた声は思った以上に情けないものだった。

ここは奈落だ。
深い闇に塗れたこの街にあってなお、その黒さは比類を見ない。

だがこの場所には男がいる。

どんなに耐えがたい痛みを受けようとも、どんなに耐えがたい吐き気を催そうとも、
どんなに醜悪な光景を見せられようとも、どんなにおぞましい環境に放り込まれようとも、
どんなに蔑まれた目を向けられようとも、どんなに畏怖の目に晒されようとも、

ここには少年が世界で唯一信じている男がいる。

だから少年はここがどんなに奈落であろうとも離れようなんて思ったことは一度としてなかった。

しかし彼の物言いはまるで永遠の別れを示唆しているかのごとく、冷徹だ。
言いしれぬ予感に心がざわめいた。



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