918:ジム[sage]
2013/03/12(火) 23:46:18.82 ID:cPyDmILe0
調教師は、性的な快感以外にも、人にかわれる事で得られる利点を教えてやろうと、彼女らの毛づくろいを手伝っていた。
野生のポケモンは、やはり飼われているポケモンと比べればどうしても毛並み体臭に難があり、特にサバンナのようなところでは蝿がたかっていることも珍しくはない。
ポケモンにとって、見た目なんてものは瑣末な問題かもしれないが、こうした虫がつかないことや、衛生的にしていることでノミやダニがつかなくなることは、彼らにとっても大きなプラスになるはずだ。
クシと整髪料とノミ・ダニ避けの薬。
その三つで毛づくろいをすれば、日常生活もずいぶんと快適になるだろう。
誰しも、一度生活のレベルを上げてしまえば、もう一度下げるのは難しいもの。性的な面以外にも、そちらの方面で仕える悦びを味わわせるのだ。
「……言われてみれば、ノミもダニもいないな。」
「だろう? 人間の元にいれば、痒みに悩まされることもないわけだ」
「人を散々かゆみを伴う薬だなんだで弄り回して、よく言うな……」
「お前が従わないからだろう?」
「なら、お前らが我らの元に遊びに来てくれ。自然を荒らす目的じゃないなら、たまになら歓迎するぞ?」
コバルオンは、すまし顔で言ってのける。実際、こいつらの言う通りなのだろう。
聖剣士に密猟者が襲われたというニュースはあっても、遭難者が襲われたというニュースは聞かない。
むしろ、昔話には森の出口まで送り届けるような親切な逸話もある。その昔話の信憑性は不明ではあるが、別段人間を敵と思っているわけでないことは確かだろう。
「お前らは旅を続けているのだろう。探す身にもなれ」
「それは鏡を見て言えと。つかまっているこっちの身にもなれ」
この2体の問答は相変わらずである。もらえるものはもらう、だが人間の手に堕ちはしない。そのスタンスだけは今後も保ち続けようという気持ちがありありと伝わってくる。
「コバルオン……お前、剛毛だな」
「あいつと合わせてよく言われる。鋼タイプだからかな。仲間はかなりいい毛並みなんだがな……」
「過酷な場所を生き抜いているおかげかもな。そういう個体は毛が太くなる」
「ふうん。よく勉強しているな」
「常識だよ。もしくは、そういう剛毛だからこそ、牙も爪も通さないから長生きできるのかもしれないがな」
そういうスタンスだからこそ、調教師のことも敵であって敵ではないという認識をしているらしい。
脅しても嘲笑われるだけ、ありったけ嫌悪しても愉しまれるだけ。それならば、万が一の可能性に賭けて抜け出すために柔らかな態度で接する。
まったく、長く生きた者というのは厄介だが、それは人間のみならずポケモンでも同じことが言えるようだ。
取り払われた仕切りの反対側にいるテラキオンのほうは、タブンネにやらせている。あちらはあちらで、テレパシーではない方法で会話しているようで、モーモーという他のポケモンと相違ない鳴き声を上げている。
「ところでな、さっき言っていたお前らの仲間のことだが……」
唐突に調教師が話を切り出すと、コバルオンは身を乗り出した。
「仲間? ビリジオンのことか……? あいつは……いや、彼女は無事なのか? ケルディオは……まさか老人にまで手を出したのか?」
「お、おい……コバルオン……」
明らかに動揺するコバルオンに、テラキオンは落ち着けとばかりに声を掛ける。だが、コバルオンには聞こえているのかどうか。
「いや、無事ではないな。どちらも、お前たちよりも、少し人間が気に入っている状態だ……」
「彼女らに……子作りの真似事でもさせているのか?」
殺気が篭った口調でコバルオンが問う。調教師は、ここで揺さぶりをかけられればと、口元をゆがめる。タブンネは怖くなって隅っこに逃げていた。
「だったらどうする? 心配するな。ビリジオンは男に囲まれて、女として幸せなんじゃないのか?」
「なら、別にいいか……」
ここで、コバルオンは一気に気の抜けた口調をする。
「……嫌に感情の落差が激しいな」
怪訝に思って調教師が訪ねるも、コバルオンの殺気が抜けた表情は変わらない。
「そうは言われても……なぁ、テラキオン?」
「う、うむ……我らにビリジオンの雌の知り合いはいないし……人違いじゃないのか?」
コバルオンに話を振られて、テラキオンは頷きつつ言う。
「なるほど、コバルオンが適当な事を言っていたのはこのためか……『ビリジオンは男だろう』なんて言わなくってよかった……」
そうして、自分で言葉にしながらテラキオンはコバルオンの妄言に納得する。
「で、ケルディオはどうなっているか、一応聞こうか?」
テラキオンが質問する。調教師はケルディオについては答えられなかった。
嘘をついて動揺させるだけのつもりであったが、ここまで裏目に出るだなんて、正直予想外だ。
「確かに、同じ聖剣士がそういう目にあっていると言われると、知り合いでなくとも良い気はしないが……
まぁ、ビリジオンの女性もケルディオの老師も、知り合いでないならどうでもいいかな、と思っている」
と、コバルオンは締めた。
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